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突き■平成25年12月1日/雁ノ巣/開始9時
◯N.ライオンズ 6-0 ホワイトスネイクス●

WS: 000 000 00 : 0
NL : 001 050 0× : 6

勝:美澤 1勝0敗0セーブ
◯美澤・岩井ー高橋

打:なし

【経過】
毎年恒例、NLの最終戦だけは話題に事欠かない・・とあって注目されたが、今年は対戦相手チームにビッグサプライズが隠されていた。
かつてはNLと凌ぎを削り、パブリックリーグ創成期を支え続けるもメンバー間の方向性の違いから無期限活動停止へ。
そしてこの日、2008年6月8日以来、5年間の沈黙を破り、NLの対戦相手として名乗りを上げたのは・・懐かしのホワイトスネイクス!
現在はNLの主力選手として活躍する久保、中津が音頭を取り、遂に全国津々浦々に散らばったメンバー集めに成功。
ここに一日限りの復活を遂げ、“打倒!NL”の牙を研いで来たのだ。

当然、久保、中津は相手チームとしてNLと対峙する。初対戦となるメンバーも多くなり、さながらオールスター戦の様相を呈してきた。
NLの先発は、スネイクスといえば美澤。まるでヘビにマングースと言わんばかりに、当時絶対的エースとして立ちはだかってきた男が満を持してマウンドへ。
まるで当時と何ら変わりない投球内容で、初回を簡単に終わらせた。

そして相手先発マウンドには、予想外の中津!もちろんNLでの登板実績はない。
「あいつピッチャーできんのか」
「舐めてんのか」「やる気あんのか」
様々な雑音をよそに中津はいつも通り、全く気負う事なく、淡々と投球練習を始める。
なんとなく、いい球投げてるな~・・・と油断した訳でもないが、あれよあれよという間に初回無得点に封じ込まれてしまう。

おかしい・・・気を取り直したはずの2回は圧巻だ。府後、髙橋の強打者を迎えるも全く気負う姿は見られず淡々と打ち取り2死。
ここまで来ると中津もNL強力投手陣の一角としての猛アピールを見せたいところ。打者は願ってもない首脳陣の一角・吉武。変化球を見せ球に、打ち気を誘いながらも最後はこれ以上ないコースの外角ストレートで見逃し三振に軌って取る。
まさかのNL先発ローテーション入り確定か!?

しかし3回、今度は後門の狼が待ち構える。NL主将・岸本だ。ここをクリアすれば、悲願のNL投手デビューも見えてくる。
多少色気を出しながらも冷静さを忘れず、やる気の無さそうな全力投球で何とここも三振に仕留める。実質、トライアウト的な実験マウンドを3回1失点に抑え、中津は見事に結果を出した!
来季いよいよリーグ戦デビューですね、の問いに指揮官の一言「ないね」。

一方美澤は全く危なげない投球で5回をノーヒットピッチ。捕手・髙橋との“兄弟”バッテリーも冴え渡り、僅か1点差のまま、ゲームは後半戦へ。
4回から相手マウンドには久保。いよいよ大御所登場で終盤勝負に出てきた。

しかし降り続く雨のせいか、いつもの久保の投球が影を潜める。なかなか波に乗り切れない。あのユニホームのせいなのだろうか!?
5回、遂にNL打線に捕まってしまう。先頭は入団2戦目の高橋。早く一本出て楽になりたい・・そんな一打は左中間に向けて一直線!遂に出た!NL初安打はセンター前クリーンヒット。出塁すればすかさず二盗を決め、相手バッテリーのミスを突いて一気に三塁へ。来季を占う意味でも重要な“足攻”でチャンスを拡大すると、ここで打席には吉武。
久保とは手の内を知り尽くした者同士、激しい読み合いを見せるも最後はツーシームが甘く入ったところを見逃さず、前進守備の間を抜ける
センター前タイムリーヒット。大きな追加点を挙げると、打席にはギラギラした眼光の岩井。
「今日は俺、全然目立ってないじゃん!でも・・2発打てば本塁打王のタイトル決まりでしょ?」とばかりに豪快な空振りでベンチの注目を引こうとするも、雨よけでメンバーの意識が散漫だと見るや優等生的な四球を選びキッチリと出塁。

ここで久保が踏ん張りを見せ岸本、小田の両ベテランから三振を奪いピンチ脱したか・・
に見えたものの、ここでNLリーディングヒッターが黙っちゃいないだろう。次週にミッキーとのグリーディングを控えている安井が放った男前な打球は誰もが納得のレフト前クリーンヒットとなるタイムリー。
松永の四球で満塁とすると、ここで4番・美澤。

誰もがそう、あの場面をプレイバックプレイバック!'06年6月4日東平尾公園、屈指の名勝負として語り継がれるNLvsスネイクス戦では、
美澤の決勝満塁弾が飛び出している。投げにくそうな表情に変わった久保。またしても同じ場面で、豪快な一打が飛び出すのか~・・・。
しかし、打ちたい気持ちをグッと抑えた4番らしい押し出しの四球でさらに追加点。
続く樋口のクサい当たりのショートゴロは都合良くイレギュラーするタイムリーエラー。熾烈な打点王争いの決定打は、NLらしく泥臭い一打で
栄冠を決めた。しめてこの回5点を追加し、NLらしいドサクサ紛れの攻撃は終了。

守備陣も何かを魅せて今季を終わりたい。名手・松永への平凡なサードゴロは一塁送球が僅かに逸れ、ファースト吉武も簡単に弾き失策。
あまりにも軽率なプレーに黒い作戦が見え隠れする。続く打球はセカンドゴロ。
岸本から安井、そして吉武へと転送される4-6-3の完璧な併殺網が完成。有終の美を飾った。

勝ちを確信した後は俺だ!と言わんばかりにマウンドには大エース・岩井。相手チームとは初対決となるだけに、いつも以上にデカい態度とデカい声でその存在感を猛アピールだ。
ブランクある相手打線にも容赦ないリーグ優勝投手のピッチングを見せつけ、3回を無安打無失点でキッチリとNL2013年を締めくくった。
ルーキー高橋も捕手として2試合連続完封勝利を導く好リード。来季へ向け首脳陣へ十分すぎる猛アピールを見せた。
・・・という事は、美澤、岩井のレジェンドエースによる継投で、見事なノーヒットノーランを達成!!
しかし、相手側の記録係が「微妙な当たりはサード失策ではなく内野安打」と主張し、事態は急変。
当事者の松永は潔く「エラーです。ノーヒットノーランです」と申し出るが、遂に両チーム入り乱れての大乱闘に発展。

熱く、激しく、楽しいNL2013シーズンは幕を閉じた。

■平成25年11月24日/駕与丁公園/開始14時
◯N.ライオンズ 5-0 INODEN●

I D : 000 000 000 : 0
NL : 100 002 02× : 5

勝:久保 4勝1敗2セーブ
S:安井 0勝0敗1セーブ
久保・美澤・安井ー高橋

打:松永 1

【経過】
歓喜に沸いたパブリックリーグ2連覇達成から1ヶ月。その間、毎週のような雨に祟られ試合を流し続けてきた。ここにきてようやく、来季を
占う意味でも重要なマッチメークだ。
この日の対戦相手は、来季パブリックリーグ加盟を熱く希望してきた、若手中心の有望チーム。そして、その査定試合に名乗りを上げたのは、リーグ制覇を成し遂げたばかりのNL。胸を貸すという意味合いではなく、これはパブリックリーグの威信をも賭けた重要な一番だ。

そんな大事な試合にもかかわらずリーグ連覇の功労者、主砲樋口をオーバーホールさせる意味合いで登録抹消し、休養させる大胆な作戦に出る。
しかも、自称“絶対無敵の大エース”岩井までもが便乗してまさかの欠場で、投打の柱を欠く布陣で一体どこまで戦えるのか。首脳陣の黒い思惑が早くも見え隠れする。

すると今度は来季を見据えた次なる戦力補強に着手。
リーグを代表する名捕手と名高い翔平が全盛期の今、NLスカウト陣がさらなる捕手の逸材を発掘。他球団との争奪戦を避ける為、まずはNL球団職員としての“囲い込み”に成功。この度晴れて高橋の入団へと漕ぎ着けたのだ。
早速この日入団会見を済ませたその足で即日一軍登録。そしていきなりスタメン捕手としての出場を決定。

指揮官はエース不在の中、全投手陣の登板を明言。初対戦となる相手チームに対し一切の出し惜しみをする事なく戦いに挑む腹づもりだ。
しかも新入団の高橋を初めての投手陣と組ませる賭けに出た。来季、前人未到のリーグ3連覇へ向けて、まるで抜かりのない明確なビジョンを
見せていく。
最年長エースなきこの日の先発は、もちろん久保だ。
今季、先発に中継ぎに大車輪の活躍を見せてリーグ優勝に貢献。斬れ味鋭い変化球が相手チームにとっては脅威の的。立ち上がりから
ベース3個分曲がりまくる、「燃えプロ」スライダーで強力相手打線を牛耳っていく。

久々のゲームで試合勘が心配されたものの、打線の方は初回から機能する。先発投手なのに不動の1番打者、久保がいきなりレフト前ヒットで
出塁。相手先発投手の出鼻を挫いた久保は再三、走る構えで揺さぶりをかけ、次打者安井の四球を誘発。
塁上を賑わすと、今度はリーグ戦で再三決めてきた、泥臭い得点シーンだ。クリーンヒットよりもむしろ、相手に与えるダメージは計り知れない。
続く松永は好投手に対しても、全く臆する事はない。見事なバットコントロールから繰り出された打球は、サードへ。しかし、気迫が上回った
のか、相手守備のタイムリーエラーを誘い先制点を挙げる。
さらに1死満塁と塁上を賑わせるだけ賑わせておいて、ここでドラ1ルーキー高橋を打席に迎え、これ以上ない絶好の場面を演出。
幾多の修羅場を経験してきた高橋を持ってしても、やはりNL初打席は緊張感MAX状態。一瞬で追い込まれ、最後はまさかの三振に倒れた。
ほろ苦いデビュー初打席となったものの、歴代強打者も歩んで来た道のり。今後の活躍を期待させる一打席となった。
さらに2死満塁。ここで今度は曲者のベテラン府後。この日は吉武との骨肉のファースト争いを制しスタメン出場を果たすと、守備では内野陣の「わざとかッ!」と言いたくなるような再三のショートバウンド送球をことごとくすくい上げるナイスキャッチを連発!推定2メートル8センチの長身から繰り出される長いリーチを生かしての大活躍。打席でもノリノリのところだったが、ベテランならではの読みを外され内野フライに
倒れ、この回1点に終わる。

しかし、この1点が最後まで重くのしかかっていく。先発の久保は七色の変化球を駆使し、相手打線に的を絞らせない。
秘技シュートで懐をえぐり込んだかと思えば、踏み込めない打者に対しては「燃えプロ」スライダーで空を斬らす。
左右の揺さぶりに対応してくる打者には、伸びのあるストレートと、とてつもない落差の「野球盤」フォーク。
結局4イニングを投げ無安打無失点で堂々とマウンドを降りた。

2番手は今や“パブリックリーグのレジェンド投手”として語り継がれる美澤だ。登板自体がレアとなりつつある今、新規参入を目指す相手打線にその存在感を大いに見せつけたい。
ここでも相手打線の傾向を掴んだキャッチャー高橋の絶妙なリードに導かれ、全盛期を彷彿とさせるピッチングを見せ2回無失点。
まるで兄弟のように似通った風貌で息ピッタリのバッテリーが、顔と体型で相手打線を手玉に取っていく。
ゲーム中盤まで1点差のまま膠着状態が続くも5回、遂にゲームは動いた。

この回先頭の松永が死球で出塁すると、警戒されながらも二盗を成功させる。松永はこの日3盗塁。個人タイトルも射程圏内か!?
続く4番美澤は僅かにミスショットし内野フライに倒れるも、続く吉武がショート、セカンド、センターのど真ん中にいや~らしくポトリと落
とすテキサス性安打で繋ぐ。注目の高橋は早くNL初安打を打ちたい気持ちをグッとこらえチーム打撃に徹し、最後は四球を選んだ。1死満塁。

ここで打席は三たび満塁のチャンスに府後。「今度こそ何とかせんといかん」気合いの打席はショートへのボテボテのゴロ。松永が生還し貴重な追加点を入れると、さらに2死満塁で岸本。病み上がりながらも再起不能の危機から立ち上がったベテランに、な、な、なんと、
情け容赦ない死球!押し出しとなりさらに貴重な追加点。主将の老骨をさらに砕きまくる体を張った攻撃的な打席でリードを3点に広げた。

圧巻は終盤7回だ。2死一、二塁から打席には安井。ここまでまさかの3打席連続三振。これほどまでにバットに当たらない安井の姿を見た事がない。と、いう事は、、、遂に、出たぁぁぁ~~~!これまでの鬱憤を晴らすかのようなジャストミートから飛び出した打球はレフトスタンド
一直線。いったやろ~~!
しかし、最後の最後で伸びを欠き、左翼フェンス最上部にブチ当たる2点タイムリー12月に2泊3日で彼女とDL行くんスよ二塁打。
やはり、男前は違う、役者が違う、安井の2点打でとうとうリードを5点に広げた。

そうなると、今度は投げたくなっちゃった三番手として、“NLの絶対的守護神”の安井が登板。今季、年甲斐もなく完投する事に老後の生き甲斐を見せる最年長エースのおかげでほとんど出番がなかったものの、その安定感は健在。
その出し惜しみない投手リレーに、このゲームの本気度が伝わってくる。
安井は幾度となく得点圏まで走者を背負うも、ここ一番の男前ウィニングショットがズバリと決まり、最後まで得点を許さない。
結局、優勝の勢いそのままにこの日のゲームを制し、いよいよ残り1試合。個人記録を見据えた醜い争いが繰り広げられる事は間違いない。

■平成25年10月27日/駕与丁公園/開始16時
◯N.ライオンズ 2-0 早良区LOVE●

SL: 0 0 0 0 0 0 0 : 0
NL: 0 2 0 0 0 0 × : 2

勝:岩井 10勝3敗0セーブ
◯岩井ー翔平

打:中津 1


【経過】
いよいよ、この日を迎えた。
NL10周年アニバーサリーイヤーを迎え、気持ちも新たに“骨太っ”なチームを目指してここまでリーグ戦を戦い抜いてきた。
結果、リーグ戦ブロック1位通過を果たし、プレーオフに進出。
プレーオフ準決勝では、NL史に遺る名勝負の末、1点差ゲームを制し、2年連続決勝へと駒を進めてきた。

この日の大一番に備え、NL首脳陣はおよそ2ヶ月前から大掛かりな対策に着手。何百、いや何千通りのシミュレーションを施し、連覇へ向けての最終段階に突入した、まさにその時だった。
準決勝で初の4番に座り3安打3打点、いま最もNL打線で手がつけられない絶好調の樋口が無念の欠場。さらに過去3度のリーグ優勝を知る
小田、府後の創成期両ベテランまでもが戦列を離れての戦力ダウン……まさに選手層ギリギリ、“総力戦”の様相を呈してきた。

ここで指揮官自らの決意。それはまさに諸刃の剣だ。ベテラン岸本が決勝に備え老骨にムチ打つ過度なトレーニングの末、遂に肉体は限界点へ。肋骨骨折、全治2ヶ月の診断を受けるも、「最後の大一番、ここで全部砕けても構わない! 」と、ドクターストップを振り切っての強行出場
へ執念を見せる。

この緊急事態に奮起したのはそんな主将の生き様に共鳴し、当初欠場予定だった従兄弟のMG深町だ。
試合開始直前に颯爽と球場入りし、何事もなかったかのように調整に励む深町に対し、NLナインの誰もが心の中で涙した。
まさに舞台は整った。遂に、泣いても笑っても、長かったリーグ戦最後の戦いの火ぶたは斬って落とされたのだ。

規定によりリーグ戦勝ち点上位のNLが後攻の為、ナインが守備位置に散って行く。
まっさらなマウンドには、今季もNL快進撃を俺が引っ張ってきた!と自負するチーム最年長、昭和百姓一揆の旗手、霊長類最強の40代、岩井が
上がった。
この大舞台に合わせて一際シェイプされ、益々枯れ果てた姿に見える岩井であったが、マウンド上でのパフォーマンスにおいては、過去最高の
結果をもたらす事になる。

その立ち上がり。課題の立ち上がりであったが、その問題点が嘘のように完璧な立ち上がりを見せる。
力みからくる抜け球で制球を乱す事なく、ストライク先行で相手打線に突け入る隙を与えない。
カウント球のストレートが猛威を振るい、強打の相手打線にも簡単に打球を前に飛ばさせない。
まさに使い古しの旧車がいきなりのエンジン全開。この先大丈夫か?この日に限ってはベンチに戻るなりいつも以上に態度がデカい。
早速、野次将軍と化し、トップからの攻撃に期待をかける。先頭はいつものように“骨太っ”打線を象徴するトリプルスリーの申し子・久保。

準決勝同様、セーフティバントの構えで揺さぶりをかけるも、最後はライトフライ。続く“帰ってきた男前”安井も積極的に打って出るも最後は
三振。松永は珍しく早いカウントから打って出てのキャッチャーフライ。全ての打者が早く自分のスイングに持ち込もうと積極策に出るも
三者凡退。しかし、この攻撃から次のイニングに繋がる手応えを感じた指揮官は、ある企業秘密の作戦を遂行する。

2回、今度は先制のピンチを招いてしまう。岩井はいつも以上に冷静さを取り戻しつつ丁寧な投球を心掛け、打たせて取るサードゴロに仕留めるが、しかし、この日初めて守備での綻びが出る。
名手美澤の一塁送球がライト方向に逸れてボールが転々。打者走者は二塁を蹴って一気に三塁まで陥れた。
2死三塁。僅差の勝負が予想される厳しい戦いの中では、1点も渡したくはない。守備隊形は当然、内野前進守備だ。「サードもう一丁!」
美澤の目は死んでいない。1点もやらない……岩井の眼差しも鋭く光る。まだ序盤……だが、守るNLナインの誰もが1点もやるつもりはなかった。先制点がこの試合を左右するのは明白。
岩井は最年長らしく、プレッシャーのかかる野手陣を気遣い、自らの手でこのピンチを抑えようと目論む。

「“K”しかないだろ!!」

いつもなら力みを招き、自滅しかけの悪循環に陥る危険性もあったが、この日の岩井は違った。唸りを上げるストレートで一気に追い込むと、最後は自称“伝家の宝刀”のカーブで空を切らせ、三振に斬って取った。“K”だ!“枯れてる”でもなく、“加齢臭”でもない。三振の“K”だ!

ピンチを断ち切ると、すぐさまチャンス到来だ。
先頭の4番美澤がクサい球を次々とカットしながら好球を待つ。すると最後は根負けした相手投手から四球を選び、待望だったノーアウトからの走者を出す。
打つ事だけが4番の仕事ではない。NL野球を知り尽くした主砲の出塁に、ベンチ総出で拍手喝采。
続く翔平が速球に振り遅れる事なく弾き返した打球で三遊間の深いところに転がし、俊足で内野安打を勝ち取る。
“短期決戦でキャッチャーを乗せてはいけない”の鉄則を見事に打ち破り、攻守で“リーグNo.1捕手”としての存在感を見せつける。
無死一、二塁……流れは完全に、キタ〜〜〜!!

ここで迎えるはベテラン吉武。この場面にして願ってもないバッターを迎え、二人のランナーを確実に先の塁へ進めるだけだ。
言わずと知れた進塁打の助言に、主将であり25年来のチームメイト岸本が駆け寄り何やら耳打ちだ。『やる事はひとつやから』
過去何度、こんな場面を目にしたことか。しかし今回のその重みは、過去最大級の痺れる場面で再現された。
ベテランらしく簡単な誘い球には乗らない吉武は、最も“打ちゴロ”な投球に全く力む事なく的確に、そして確実に打球を殺したゴロをファーストに転がす。
まるで送りバントのような確実なプレーでランナーを進塁させると、雄叫びをあげながらベンチへと戻りNLナインとハイタッチだ。
まだ得点が入ったわけでも、勝利を決めたわけでもない。しかし、NL野球の真髄を体現してきたメンバーにとって、このプレーがどんな意味合いを持つものか、誰しもわかり切っている。

1死二、三塁。先制点のチャンスに、打席は中津。恐い……全く何を考えて打席に入っているのか、わからないのが、恐い。しかし、この恐ろしさが、中津の持ち味だ。時として、とんでもない事をしでかす男がこの絶好の場面で何もしないわけがない!

期待と不安が入り交じる不穏な空気が球場に漂う中、出来る男・中津が放った打球はバウンドが中途半端なショートゴロだ。
前進守備ならば、尚更とんでもない当たりが、遂に出た。
ここで“ゴロGO”スタートを切った三塁ランナーの美澤が本塁めがけて、まさに猪突猛進!相手守備の懸命なバックホームで、クロスプレーか?

……と思われたが、スーパーヘビー級の肉弾が、見かけによらない華麗なるスライディングで砂ぼこりが舞う中で見事な生還を果たすと、そのままボールはバックネット方向へ転々とする間に、俊足を飛ばして突っ込んできたセカンドランナー翔平までもが一気にホームイン!
どうしても欲しかった待望の先制点。しかも、一気に2点。このままさらに追加点を奪えるか。

打席には岩井。誰もが「“く”の字はいらんから、もう1点頼む」と思った矢先、見事に当てに行ってのセカンドフライに倒れる。
2死となるも打席には緊急出場のMG深町。下位ながらツボにハマればとんでもない痛打を放つ打撃職人は、空振りを繰り返しながら自分の
タイミングを計る。「来たッ!」と得意の右打ちでベンチを沸かせるも、僅かにバットの芯を外してセカンドゴロに倒れる。
「紙一重か…」不敵な笑みを見せる深町だったがこの回2点で終了。
しかし、僅差の勝負を想定したこの日のベンチワーク。この2点が、これまでの試合の2点よりも数段価値のある2点になった事は、誰もが感じている。

とにかく、この先制点を守り切りたい。このゲーム最後まで1人で投げ抜く気迫を全面に押し出す岩井は、バックの好守にも助けられていく。
岩井は簡単に外野にも打球を飛ばさせない投球に手応えを感じ過ぎたか、1死から簡単にストライクを取りに行ったところを左中間に痛打されてしまう。走者二塁。ここまで決して順風満帆に来た訳でもなく、様々な困難に遭遇してきた。しかし、その困難を乗り越えられてきたのは、
昭和の邪念でもなく、自らの過信でもなく、そう……いつも信頼できる女房役、捕手翔平のバズーカ肩だった!

岩井が投じた変化球は案の定、ベース手前でワンバンして弾いてしまう。「マジかああああああ〜〜〜!!」誰もが絶叫を繰り広げる中、当然、二塁走者は三塁を目指してスタートを切る。「ここを待ってました!」とばかりに、捕手翔平の目が鋭く光を放つと、素早いフィールディングでボールに追いつき、サードめがけて矢のようなストライク送球!見事に走者をタッチアウトに仕留めると、静まり返っていたNLベンチから拍手喝采の雨あられだ。

心配しすぎて60代の顔つきになっていた岩井も、息を吹き返したかのような精気ある40代の顔に蘇り、この回を無得点に抑え切る。
こうなるとNLお得意、鉄壁のディフェンス陣が試合を締めていく。
序盤に手痛い送球エラーをしたサード美澤は、次々と放たれる際どい打球を巧みに処理。ショート松永はいつものように守備率99.8%の鉄板フィールディングで誰ひとり出塁を許さない。マウンドの岩井は中盤戦を簡単に抑えていき、調子乗りまくりでゲームを支配していく。

しかし山場は終盤6回に訪れた。過去2度の優勝に輝いた相手チームが、このまま黙って引き下がるわけがない。まさに意地と執念か、先頭打者に久々の長打を与えてしまう。さらに内野ゴロの間に、1死三塁。
1点を捨ててアウトカウントを稼いでいくか、最後までリードを保つ為に1点もやらないかNLベンチの選択は、後者だ。内野前進守備が敷かれる。ここで岩井も勝負フンドシを引き締め直す。いざ、勝負だ!
次打者にはストライク先行で追い込んで、最後は内角をえぐる剛球で見逃し三振に仕留める。ここまでは追い込んでの変化球…というリードから一転、相手の裏をかく強気かつ巧みな翔平のリードで走者を釘付けにしたまま2死を奪う。

相手も必死だ。このチャンスを逃すまいと、次打者が放った打球は一、二塁間を抜けるかという際どい当たり。タイムリーか!?
「しまったあああああ〜!!」岩井の絶叫がこだましそうな当たりにも、この日セカンドに入ったNLイチの男前が素早いフィールディングで打球を追いかける。追いつくのか〜!?誰もが固唾を飲んで見守る中、彼女が見守る中、安井が最後はスライディングハンサムキャッチで好捕し得点を許さない!まさに決勝戦の大舞台に相応しい超ファインプレーでまたしても無得点に切り抜けた。

守り切ったNLは遂に2点リードを保ったまま最終回を迎える。ベンチの指揮官を含めメンバー全員、苦しかったリーグ戦の戦いぶりが走馬灯のように脳裏に駆け巡る。
とにかく先頭打者を打ち取る事に神経を集中させる。が、しかし、こんな時に限って、バッテリー間にクサい当たりを打たれる。ここで素早い
反応を見せたのがキャッチャー翔平だ。不規則なバウンドをファウルにする前にフェアグランドでキッチリと処理する大ファインプレー!
あまりにも大きい1アウトを奪い取ると、いよいよ歓喜の瞬間の訪れを意識し、ニヒルな岩井の表情が一瞬崩れる。
この油断がまさか、最後のヤマを招く事になろうとは、さすが昭和天覧試合に感銘を受けた岩井でさえ、知るよしもない。

続く当たりは三塁線際どいサードゴロ。いつもの名手美澤なら何でもなく捌くところ…が、しかし、これが優勝を目前に控えたプレッシャーか、幾多の大舞台を経験してきた美澤でさえ、手元がおぼつかない。まさかのジャックルで出塁を許してしまう。
しかし、最年長ながら最後までマウンドで仁王立ちの岩井は、戦後の昭和を生き抜いてきた精神力で、動揺する事もない。
続く打者の痛烈なピッチャー返しのゴロを体を張って止め、一瞬打球を見失うも素早く拾い、何とか2アウトに。抜ければセンター前…という
当たりに反応する辺り、いつも指揮官の鉄拳を最小限度で食い止めてきた動体視力がここにきて生きてきた。さあ、あと1アウトだ!

が、しかし、ここで百戦錬磨の相手打線も簡単には終わらせない。センター前ヒットで執拗に食い下がり、2アウトながら一、三塁。遂に同点のランナーまで出してしまった。
と、ここで指揮官が今季初めて、タイムをかけてマウンドへ駆け寄る。まさに、絶妙なタイミングだ。内野手も集まり、岩井へ激励の言葉を投げかける。
指揮官からある作戦がバッテリーへ託される。ここまで一度も見せた事がない、秘策の勝負手が遂に封印を解いた。

相手は1打同点を狙って塁を詰めてくる。1塁ランナーはいいスタートを切ろうとするが、1、3塁。“投げてこないだろう”
こちらはキャッチャーが翔平だ。セオリーを逆手に取って、そこを突こう。

作戦は“1塁ランナーを刺す”だ。

ナインは守備位置に散り、ゲーム再開だ!
同点となる一塁ランナーの様子をくまなく観察したキャッチャーは、迷いなくサインを出す。スタートを切れば、二塁で刺してゲームを終わらせる作戦……。セットに入った岩井がここでまず動いた。初球を投じる直前。プレートを外し、冷静に三塁へ牽制……と見せかけて、まさに背中にも目がついているかのように冷静に一塁ランナーの動きを把握した岩井は、クルリと向きを変えて一塁へ素早い牽制球を放る。

いいスタートを切ろうとしたのが災いしたのか、1塁ランナーが飛び出した!
一二塁間に走者を挟むと、最後は追いかけたショート松永が一塁走者へタッチしてゲームセット!岩井の大ファインプレーだ!!!!!

マウンド付近で歓喜の輪が広がる。死闘を制し、長く苦しかったリーグ戦の激闘を噛みしめるかのようにナインの喜びが爆発した。
2013年度のパブリックリーグは、N.ライオンズが2年連続、通算4度目の優勝を決めた!
しかし、浮かれているだけではない。“NLナインは紳士たれ”のコンプライアンスにより、誰ひとり試合が完了していないグランド内での胴上げを強行したりはしない。まさに、相手に敬意を払う、これこそが歴史と伝統を重視するNLのスポーツマンシップだ。

整列しお互いの健闘を讃え合う。審判より「大変いいゲームでした!」と労いの言葉を受ける。まさに、リーグ頂上決戦に相応しいゲーム内容に、球場に詰めかけたパブリックリーグファンから惜しみない拍手が贈られた。

ベンチ前に戻り、贈呈された優勝カップを囲み選手全員で記念撮影。そして、主将、選手会長、主砲美澤(お約束)の順に、胴上げが行われる。その夜、場所を移しての優勝祝賀会を開催。年甲斐もない岩井のはしゃぎっぷりが、この優勝の喜びを物語る1シーンであった事は、言うまでもないだろう。










NL集合.jpg









■平成25年10月13日/雁ノ巣9番/開始15時
○N.ライオンズ6-5 シャークス●

SH:0 1 0 2 2 0 0 : 5
NL:2 0 3 0 1 0 X : 6
勝・岩井 9勝3敗0S
○岩井ー中津

打・樋口 2

【経過】
リーグ戦をブロック1位で通過し、いよいよ最終章となるプレーオフの荒波に突入した。
ここからは、敗れた時点で即、終焉を迎える。勝つ以外に栄冠を勝ち取る術は残されていない。
しかし、だ。そんな集大成のビッグゲームに、まさかの不測の事態が発生する。
不動の四番として名実共にチームを支えてきた美澤がまさかの欠場。NL黄金時代を支え続けてきた大黒柱不在の緊急事態に、チーム内の動揺を
隠す事はできない。

さらに、今季キャリアハイを連発、人生最大の全盛期を迎えた最強の2番打者「彼女の可愛さもキャリアハイですけどね」安井までもがまさか、
まさかの戦線離脱。
主力の相次ぐ欠場を受け、いつもより心なしか元気がない試合前の練習中、首脳陣ミーティングではこの日の四番を模索中。
ほぼ構想がまとまっているにもかかわらず、四番の幻想に取り憑かれた男が無言のアピールを続ける。
さり気なく首脳陣の前を通り過ぎる際に、これ以上ない力を振り絞り目一杯の素振りを繰り返す、哀愁漂う昭和の生き字引・岩井。
首脳陣には軽く無視された末、何事もなかったかのように先発のマウンドへ上げられてしまう。
こんな時こそ慎重に立ち上がりたい……それが昭和団塊の世代を激しく生き抜いてきた男の為せる業だ!

『どうせそんなん思ってても、いつもの悪い癖で初回失点するんちゃうん?』と誰もが思っていた矢先、立ち上がりをしっかり0点で切り抜け、意気揚々とベンチへと戻る。
最新機種の携帯電話を操る若手を見つけると、『チッ、そんな玩具に頼っちゃいかん。男は自宅でフリルのカバーがついた黒いダイヤル式の電話器で十分だ!』と昭和を熱く語り始めるも軽く無視され、何事もなかったかのように戦況を見守り始めた。

いつものように先頭打者として長打もある、足もある、そしてチャンスに滅法強い、久保が打席へ。誰もがその力強いスイングに期待した
その矢先、投球と同時にすかさずバントの構えに入った。『2週間前から考えて狙っていた』という、まさかの初球セーフティだ!
うまく打球を殺すも捕手の絶妙なフィールディングで一塁は微妙な判定にしかしここで魅せるのが久保の斬り込み隊長としての真骨頂。
一塁へ怒濤のヘッドスライディングを決めると間一髪、判定はセーフ。まさにスタートから鳥肌モノのプレーでベンチを一気に湧かせると、
主砲不在の不安要素を一気に消し去る勇気を与えた。

いきなりの奇襲に動揺した相手先発投手から、続く中津が死球を浴びてチャンス拡大。さらに3番松永の卓越した打撃センスから繰り出された
打球は、鮮やかにレフト前へ。早くも先制タイムリーか、が、しかし、左翼手の猛チャージと捕手の好ブロックで走者・久保は本塁手前で
タッチアウト。序盤から手に汗握る攻防……白熱のプレーオフに相応しい展開となってきた。

ここで流れを切らせたくないNLは、この日4番に抜擢された樋口。
ベンチで見守る愛する彼女、遠い故郷から応援するファミリーのシモミ&ヒトミの家族愛を十二分に意識しながら打席に入る。
このチャンスに祈るベンチの彼女。『私は牡蠣にあたったけど嘉孝はきっとバットに当てますよ』
豪快かつコンパクトに振り抜いた打球は、左中間を深々と破る特大のタイムリー二塁打!
中津が悠々とホームインし、どうしても手に入れたかった先制点を手にした。『NLを優勝させる為にこの地にやって来マシタ』という優勝請負人の活躍で早くも主導権を握る。なおも攻撃の手を緩めたくはない。主砲を欠いた手負いの獅子に、僅差で勝負する余裕などないのだ。

2死となるも三塁に走者を置いて打席には岩井。『みんな俺を信じてくれてる。任せとけよ〜』と力みまくりの中で、投球が僅かに逸れ捕手がボールを追いかける。すると三塁ランナーの松永がスタート良く、全く躊躇なしに本塁へ突入。しかしタイミングはアウトか……ここで松永が
魅せる。まともに走り込んでも、滑り込んでもアウトになる……瞬時の判断で松永が魅せた奥の手は、捕手のタッチするタイミングを絶妙に
ズラし、その場でタップダンスを踊るかのような足さばきで幻惑し、本塁を陥れた!セーフの判定に沸き返るNLベンチ。かつて誰も目にした
事がない秘技で貴重な追加点を奪い、2点のリードを奪った。
盛り上がるベンチを尻目に打席での岩井は、『俺の時、バッテリーエラーでホームイン多くね?』と愚痴り出した末、打球を外野後方まで飛ばす“ヤケクソ打法”を見せるも半身で追いかけたセンターの好捕に阻まれ、『何で俺だけこ〜なるのっ……』と呟き、寂しげにベンチへと戻っていった。
打席でのショックを隠せない岩井はマウンドへ上がると、平然を装いながらも1点を返されてしまい、試合展開を全く分からなくしてしまう。
さらに、この雁ノ巣マリンに吹き荒れる強風……誰もが慣れないこのハンディを乗り越えたのは、やはりベテランの経験と、恐ろしいまでの直感だった。
3回、岩井と“昭和カルテット”を結成するベテラン•小田がとんでもないファインプレーを魅せる。
相手先頭打者の打球はドンピシャに合わされてレフト後方への痛烈なライナー。『どっひゃああ〜〜〜』岩井の悲痛な叫びが聞こえてきそうな
その時、まるで相手打者の打球落下地点を予測したかのようなベテラン左翼手・小田が強風をも計算に入れ、あらかじめ守備位置を移動させ一歩も動かない状態でナイスキャッチ!普通なら二塁打コースとなる当たり、これまで何百本いや、何千本という当たりを捌いてきたベテランならではの読みが冴え渡る。苦しかった昭和のスパルタ式ノックの成果が、この大一番で遺憾無く発揮された。
さらに岩井が何とか打ち取り高々と舞い上がった内野フライ。ここで“昭和の黒い遺産”一塁手・吉武が手を挙げて追いかける。強風にあおられ、最後はショートの位置まで打球が流されるも、全てを計算し尽くしたかのように落下地点に足を運び捕球。かつて若手時代に何度も足を運んだ“庭”の雁ノ巣マリンで、ベテランが躍動する。

1点差に詰め寄られた後、ゲームの流れを渡さないベテランの老獪なプレーで蘇った岩井はこの回を無失点に抑え、味方打線の援護を待つ。
するとその裏、ゲームを決定づけるかのような流れを呼び込む。先頭の中津がいつものように、全く打てる雰囲気を醸し出さずも冷静に見極めて四球出塁。頼もしいクリーンアップへと繋いでいく。
すると松永が期待を裏切る事なくキッチリと仕留めるレフト前安打でチャンス拡大。この男の辞書に“打ち損じ”という文字は無いのか⁈というほどの確実性で、先程の打席で先制タイムリーを放った4番•樋口。1本目の安打は愛しき彼女へ、そしてこの打席は故郷で朗報を待つ母へ贈る……ブレない信条を持つ樋口のスイングから放たれた打球は、鋭いライナーとなり見事に三遊間を破るレフト前タイムリー!中津が生還し貴重な追加点を挙げると、続く吉武の打席で暴投の間に追加点。
そして1死から打席には岩井。三塁にはいつの間にか進塁した樋口。岩井の脳裏に一抹の不安がよぎる。
『前もあったよな、こんなシーン。ヘイ、ボーイ、今度こそわかってるよなあ……』三走•樋口に昭和ならではの睨みを利かせると、次の投球は
捕手の構えたミットを大〜きく外れる暴投。素早いスタートから本塁を陥れ、ベンチでナインと歓喜の輪に加わる樋口。打席で岩井は
『俺……嫌われてんのかな……』ポツリと吐き捨てると力ない内野ゴロに倒れる。
岩井の個人記録など知るよしもないとばかりにリードを4点に広げ勝負あったか、と思われた直後の4回、とうとう相手強力打線が怒濤の反撃に転じてきた。

これまでリーグ戦を牛耳ってきた岩井の剛球がことごとくハネ返され、挙げ句の果てには豪快な特大2ランホームランを浴び一気に2点差にまで迫られてしまう。
さらに5回、今度は緩急自在の投球で完膚なきまでに抑えにかかった岩井がまたしても連打連打の乱れ打ちを浴び、
遂に同点に追いつかれてしまう。
今季これほどまでに打ち込まれたのは初。この大一番に懸ける相手打線の集中力たるや凄まじいものがあり、ゲームは一気に振り出しに
戻ってしまう。

同点の試合中盤、まさにギリギリの攻防で明暗を分ける事になった。流れは猛烈な追い上げを見せた相手チームにある。早く流れを変える救世主が欲しい。
そんな期待を抱いた5回裏、1番からの好打順も二死走者なし。だが、ここからNL“骨太っ!”打線が目覚めていく。
松永が執念とも言える粘りで四球を選んで出塁すると、勝負師の目がギラリと光る。相手バッテリーの警戒をものともせず二盗を成功させると、ここで三たび4番・樋口に打席が回る。
今度は婆ちゃんの為に……そして、NLの一員として……。
樋口が熱き想いを込めて放った一打は痛烈な打球となり、レフト線上めがけて飛んでいく。
『ああああ〜……ファウルか〜……』誰もが固唾を飲んで打球の行方を見守る。
だが、白球は樋口の熱き想いのように全くブレる事なく、最後はレフト線の白線上で石灰がパァ〜ンと弾けるかのように、ナイス•オン!!!
静寂から一転、歓喜のNLベンチに、勝ち越しの生還を果たした松永が帰ってきた。
樋口のこの日3本目、猛打賞となる値千金の勝ち越しタイムリー二塁打でリードを奪うと、この日何度も死にかけた岩井のピッチングが、
遂に覚醒する。
6、7回を完璧に抑えると、ベテランらしく計算され尽くした有終の投球術で1点差を逃げ切った。
まさに、プレーオフの大舞台に相応しい名勝負の末、昨年優勝の意地を見せたNLが何とか勝利をものにした。

■平成25年9月29日/上月隈第2/開始11時
●N.ライオンズ 0-7 レッドバイソン◯

RB:: 0 3 0 2 2 :7
NL:: 0 0 0 0 0 :0

敗・岩井 8 勝 3 敗 0 S
●岩井ー中津

【経過】
練習試合。リーグ戦レギュラーシーズンを終え、プレーオフ進出を決めたNLは今季2度目の対戦となる強豪チームを迎えた。
先発岩井はプレーオフを見据えてのピッチング。しかしこの日は守備に足を引っ張られ5回失点。
打線も振るわずまさかの完封負け。悪い膿を全て出し切った。切り替えて、あとは全力を尽くすのみ。
いよいよプレーオフの戦いに突入していく。

■平成25年9月22日/駕与丁/開始12時
○N.ライオンズ 17-2 メイズスクラッピー●

NL::0 14 0 2 1 0 :17
MS:1 0 :::0 1 0 0 : 2

勝・岩井 8勝2敗0S
○岩井ー中津
打・久保 2

本・樋口1号(ソロ)

【経過】
いよいよこの日はリーグ最終戦。
相手は昨年プレーオフファイナル(決勝)で優勝を争ったチーム。まさに相手に不足なし。
NL2013の集大成をキッチリと示して有終の美を飾りたいところだ。

初回、早速NL強力打線が目を覚ます。1死から好調持続の安井が芸術的なライト前安打で出塁すると、いつものように松永がクサいボールには
一切手を出さず、貫禄の四球を選ぶ。決める所は決め、繋ぐ所は繋ぐ…まさに首脳陣好みの打撃を見せる仕事人の活躍で、4番・美澤へ。
この状況に今季序盤は力んで凡打を繰り返していたものの、この打席は平常心…鋭いスイングから打球はあっという間にレフト前に運ばれ、
1死満塁。ここで迎えるはNL史上最強の大型ルーキー・樋口。広角に鋭い当たりを連発し、相手投手に与えるプレッシャーを増大させてきた
スラッガーは狙いすましたかのように右方向へ一閃!抜ければ走者一掃という超ド級の当たりを放つも、ここは不運にもセカンド真っ正面…
飛び出した一塁走者が挟まれまさかの併殺。紙一重の攻防に、ここまでは僅差の好勝負が予想された。

その裏、昨年の優勝投手にしてNL昭和石炭ジェネレーションの旗手・岩井が先発のマウンドへ。若き日には汗と脂にまみれた最年長がこの日も
脂汗を滲ませ序盤から力投を見せるも、いつものように初回失点。キッチリと1点を失い、野手陣から『気にするな~』『いつもの事だ~』と
励ましの檄を浴びながら、人一倍小さくなった背中でベンチへと戻る。

そんな最年長に、何としても楽な投球をさせてやりたい…と誰かが言ったとは思えぬものの2回、今季最大のビッグイニングを迎える事となった。
先頭の吉武がベテランらしく個人成績を調整しようと緻密な計算を企てた末、粘りに粘った末の四球を選ぶと、ここで相手投手の歯車が一気に崩れる。続く中津、岩井まで3連続四球で無死満塁とすると、ここでNL恐怖の下位打線を長年担ってきたMG深町。入団早々この駕与丁のグランドで、まだ夜が明けぬ薄暗い早朝に首脳陣と二人三脚で打撃練習を繰り返した、あの日の姿が蘇る。まさにあの時と同じように、打球はセンター前に
弾き返される同点タイムリー。ベンチ全員拍手喝采だ!さらに続く岸本は相手投手の持ち球全てを引き出すばかりか、主審のストライクゾーンまで緻密にデータ化した上で四球を選ぶという嫌がらせ的な攻撃で押し出しの追加点。この時点でまだ1死も奪われていない。
主将が丸裸にした相手投手のデータをすぐさま生かし、トップから久保、安井、松永が次々と見極めてさらに連続押し出し四球。
クサい球には全く反応せず、打ち損じる事なくアウトカウントを記録せぬまま早くもこの回6得点。暑さで相手守備陣が徐々に体力を消耗する中、真綿で首を絞め続けるかのような攻撃はまだまだ続く。
4番・美澤は押し出し死球を浴びると、続く樋口は安井以上にアーティスティックにライト線へポトリと落とす、走者一掃の3点タイムリー
二塁打。
一巡し吉武がまたしても粘り腰で相手投手の投げる球種を無くさせる血も涙もない打撃でさらに四球を選び、続く中津は全く打てる雰囲気を醸し出さずも、最後は相手バッテリーの油断を突いてレフト前タイムリー。もうそろそろいいだろう…誰もが攻撃の手を緩めようと試みるも、昭和の高度経済成長期を担った自信から岩井が四球でさらに出塁を続け、満塁のお膳立てでMG深町へと繋ぐ。かつてホームレスのギャラリーに見守られながら、薄暗い早朝の打撃練習を繰り返した深町は、デーゲームの明るさに眩しさを憶えながらも、今度は教科書通り得意の右中間へ。見事真っ二つに打球を転がす走者一掃の3点タイムリー二塁打でこの回しめて14得点だ。

4回、再び先頭は吉武だ。そろそろ打って出ていい頃だろ~という淡い気持ちを抑えて情け容赦なく3たびの四球を選ぶと、ベテランらしく老骨にムチ打ちワンチャンスで二盗を試みるも、次打者の“打ちそうな雰囲気まるで無し”のはずの中津がこの投球に限って打って出てファウルを喫し、
一塁コーチャー久保の失笑を買う。僅か一度の盗塁チャンスに懸けた吉武の冷たい視線を浴びる中、尻に火が点いた中津はセンター左への二塁打で二、三塁のチャンスを演出。ここでそろそろ打つ気満々の岩井へは、踏み込んだ左腕への容赦ない死球。『投げる方の右腕じゃないから大丈夫
大丈夫~』というベンチの温かい励ましで出塁すると、またもや満塁で打席にはMG深町。しかし『これ以上は身の危険を感じるので自重します』と言わんばかりにあっさりの三振でベンチへと戻る。2死から久保の死球で押し出し点を奪うと、公私共に絶好調・安井。今度は本来の引っ張りでレフト前へ痛烈な『ボクぅ、タバコ止めて太ったじゃないですかぁ。これね幸せ太りなんですよぉ』タイムリーで続きこの回2点を追加。

5回には締めの大花火だ。試合前に『この間まで何かベトっとした汗だったんですよ。でも最近サラっとした汗なんです。なんで、今日はイケます』自身の好調バロメーターに気づいた5番・樋口の予感的中・有言実行打は豪快に引っ張ると弾丸ライナーのままレフトスタンド一直線!
待望のNL第1号ソロホームランでベンチはお祭り騒ぎだ。

これでいよいよ幕引きか…と思われたところで、思わぬ男の黒い欲望が渦巻く。
過去、連続アベックアーチ2度を記録し、前の打者が本塁打を打った後の相手投手が落胆した心の隙を突き、続け様に一発を放つ事に生き甲斐を
見せるベテラン・吉武が、この喧騒をよそに密かに打席に向かう。
いつも以上に慎重に投球を見極めながら捕えた打球は、ライナー性で外野手の頭上を襲うもスタンドには届かず左中間突破の二塁打に。打球方向を誤り最深部の逆方向へと飛ばしてしまったベテランの黒い思惑は外れたものの、ポストシーズンへ向けてのNL長打攻勢は相手チームの驚異と
なったに違いない。

結局、打線は長短打11本を放ち17得点を挙げた。これだけの援護を受け、NL最年長が燃えないはずがない。
初回に1点を失って以降、強力相手打線を得意の緩急で手玉に取っていく。
4回には“名手”センター久保が『イレギュラーフライ』で落球し失点するも、秘技トルネードも飛び出すほどのやりたい放題で完投。
8勝目を挙げると、『最初の東京五輪はTVにかじりついて見てた。次の東京五輪まで現役で頑張るよ』と熱く語った。
これでチームはブロック1位通過を達成。見据える先は当然、10月に控えるプレーオフ天王山だ。

■平成25年9月8日/駕与丁/開始14時
○N.ライオンズ 18-1 丸喜レンジャース●

NL::6 2 0 6 4 0 :18
MR:0 0 0 1 0 0 : 1

勝・久保 3勝1敗2S
○久保・美澤ー翔平

打・樋口 1

【経過】
連日に渡る雨模様で開催が危ぶまれたこの日、NL晴れ男集団の祈りが通じて、見事な快晴に。予定通りリーグ終盤戦の戦いに挑んだ。
久々の集結にも関わらず、主力勢揃いのメンバー構成で臨み、各自ラストスパートへの調整を見せる。

初回、そんな打線の導火線にいきなり火を点けたのは“メキシコ帰り”の先頭打者・翔平。いきなりの死球で出塁すると、その先わずか2球で二盗、三盗を決める。ちょっとよそ見していた者が度胆を抜かれる無死三塁のテキーラチャンス。
ここで、当たれば長打量産態勢の“超・攻撃型2番打者”安井が『打ちたい…でもやっぱり打ちたい』という欲望を捨て去り、チーム打撃に徹し
『やっぱりディズニーランドはクリスマス時期に行く事にしたっス』四球を選び出塁。

当たればどのヒットゾーンにも軽々と飛んでいく“NLヒットメーカー”3番・松永もじっくり見極めて四球……早くも無死満塁の好機を
演出し、“NL10年史最強の4番”美澤へと繋ぐ。
皆の期待が痛いほど背中に突き刺さる中、本人的には全く不本意ながらもレフト前タイムリーを叩き出し先制。

さらに、続く“NL待望の5番大型スラッガー”樋口は痛烈なレフト前連続タイムリーで2点目。なおも無死満塁から岩井、吉武が連続押し出し
四球。ようやく1死となるも、ここで“NL最古参の大型曲者”府後が見事に押っつけ、前進守備の一塁手の僅か後方へポトリと落とす芸術的かつ嫌がらせ的な2点タイムリーで初回に一挙6点を先制した。

先発は久保。敢えて“昭和の最年長右腕”岩井をベンチに温存するも、NLが誇る2枚看板の登板で、戦局に全く違和感がない。
ベンチからは岩井の“昭和的な激励の野次”が飛び交う中、久保はいつも通りのテンポ良い投球で無失点に抑えていく。

2回には早くも2巡目となる先頭の翔平が右中間を真っ二つに破る特大の二塁打を放つと、安井の内野ゴロの間に好判断で三塁へ。
松永の四球を挟んだ後、美澤のサードゴロでソツなく本塁を陥れ追加点。抜け目ない緻密な走塁で敵失も重なりこの回も2点を追加する。

4回にはさらにビッグイニング。3巡目の翔平がこの日2個目の死球を受けると、安井が『打ちたい…今度こそやっぱり打ちたい』という欲望を再び抑えてチーム打撃に徹し続けて『ホテルって、どこに泊まりました?まぁ彼女とならどこでもいいっスけどね』四球を選び、初回と全く同じチャンスメークを見せる。

すると今度は松永が獲物を捕らえる鋭い眼差しから一閃!打球はセンター頭上を遥かに超える特大の2点タイムリー三塁打。
勝負所を全く見逃さない打撃技術を見せると、今度は4番・美澤の出番だ~!と全員の視線が注がれる中、慌てる素振りもなく、やや不満げに
四球を選び慎重に出塁。1死後、打席には岩井。『
朽ち果てる前に4番に座りたい…ここはアピールチャンス!』とばかりに長打狙いミエミエの“く”の字フルスイングを見せるも、片膝から
崩れ落ちる腰砕けの空振り。打席内に砂ぼこりを舞わせ、ベンチの失笑を買うも、懲りずに続く投球にも迷わずフルスイング!しかし、
衰えた動体視力が誤差を生じ、無念にもサードゴロ真っ正面。打ち取られるも、相手守備の失策に助けられるタイムリーで見事に打点をゲット。さらに2死から久保の打球までもが相手失策を誘いこの回4点目。
府後がベテランの味を見せるセンター前2点タイムリーで続き、この回も6得点だ。

5回には三たび先頭打者として回ってきた翔平が、今度は左中間をキモティ~ほどに破る二塁打。もう我慢できない…打ちたい…とばかりに続く安井の打球は大きな弧を描きレフト後方へ。『行ったか~~』と一瞬思わせるもレフトフライ。しかし、続く松永の当たりは堅実にレフト前へと運ばれるタイムリーとなり、翔平が生還。
常に全打席を注目される4番・美澤は、今度こそ正真正銘のレフトオーバーとなるタイムリー二塁打!さらに続く樋口もレフト前タイムリー。
この日はクリーンアップだけで9打点を荒稼ぎする理想的な展開だ。さらに吉武も右中間に運ぶタイムリー。相手の傷口に塩を塗り込むような
ベテランの一打でこの回4点を奪うと、相手側の『もうそろそろ、お控え頂いてもよろしいでしょうか……』という見えない白旗が揚がる。

打線の大量援護を引き出した久保の投球も冴え渡る。
3回までノーヒットに抑え、結局6回を1失点。登板の機会を奪われた岩井の狼狽した表情をよそに、最終回を美澤に譲り降板。
美澤は大荒れの投球で最終回を締めることなく、試合時間切れによりゲームセット。
結局、17安打19得点を挙げ、久々のリーグ戦は快勝に終わった。

■平成25年8月11日/駕与丁公園/開始14時
○ボーイズ 3-0 N.ライオンズ●

Bs:1 0 0 0 2 0 0: 3
NL:0 0 0 0 0 0 0: 0

敗・岩井 7勝2敗
●岩井・美澤ー中津

【経過】
リーグ終盤戦を締める意味も含め、ここは若く勢いのある強豪チームとの練習試合をマッチメイク。
一時戦線離脱していた樋口が復帰し、いよいよラストスパートへ向けての態勢が整った。
そんな立ち上がり。先発・岩井の課題とされるところ、まるで親子ほど年の離れた相手打線に出鼻を挫かれ1点を献上する。
しかし、ここからが最年長右腕の見せ所。追加点を許さず、うだるような暑さにもめげず剛球で相手打線を沈めにかかった。

1点を追う1回裏、先頭の久保が執念で死球を浴び出塁。しかし小気味良い相手投手を打ち崩せず、安井が内野フライに、そして松永が内野ゴロ併殺に打ち取られる。あまりに堅い、鉄壁の守備陣に、初回為すすべなく無得点に終わった。

2回からは調子を掴んだ岩井の奪三振ショーが始まる。弱気にもならず、調子コキ過ぎる事もなく相手打線のバットから空を斬って行く。
しかし、相手チームの小刻みな投手リレーの前にNL打線が沈黙。
何とか走者を得点圏にまで進め追撃態勢を見せるも、なかなか得点までには至らない。

すると5回、ここまで踏ん張ってきた昭和の生き字引・岩井が2点を失いなお大ピンチの連続。
ここでゲームを壊すか、それとも……。ここで見事に相手打線を断ち切った岩井は、今度は自らのバットで反撃の狼煙を上げる。
1死一塁、狙うはレフトスタンド。まさにこの日一番の“く”の字を描くも、打球はショート一直線。懸命に一塁を目指すも6―4―3と渡る併殺打に倒れ、そのままゼイゼイ息を切らしながら、再びマウンドへ。

そんな最年長の生き様をムダにしたくない。チーム一丸となるも、もしや、気がつけばまだNL打線、1本のヒットも生まれていない。
岩井は6回を気力で無得点に抑えるとその裏、完封どころかノーヒットノーラン阻止へ、打線に期待が集まる。

尻上がりに回を重ねるごとに球威ある相手投手が次々と継投され、この回も2者連続三振。
ここで打席には府後。誰もが打てない時、府後の悪球打ちが時として突破口を開いてきた……もしや……そんな淡い期待を乗せた打球は投手の
横を抜け、追いかける二遊間を真っ二つに切り裂くセンター前安打となった!
府後の一打で安堵した次打者の小田は冷静に、自害するかのような三振を喫しこの回も無得点。
最終回、完投を目指す岩井をマウンドから引きずり降ろし、ここで旧エース・美澤を登板させた。まさにこの試合、オープン戦とはいえ意地でも追加点を許せないNL首脳陣の本気度が伝わってきた。

美澤はまさに全盛期を彷彿とさせるかのようなピッチングで相手打線を三者凡退に斬って取り、味方打線にいい流れを呼び込む。
ベンチでは降板した後に声だけはデカい岩井の昭和ならではの叱咤激励が球場外にまでこだまし、いよいよ最終回へ。

ここで先頭は願ってもない策士・岸本。相手抑え投手の球威に度肝を抜かれるも冷静な判断でボール球を呼び込み、最後は誰もがスイングして
しまうような変化球に老骨がバギバキと軋みながらもグッとこらえ遂に四球を選ぶ。
そんなベテランの必死な姿をネクストで見ていた久保が燃えないわけがない。
見事にフルスイングで捉えた打球!……が、しかし、これが不運にもサード真っ正面のライナーに倒れる。

1死となるも、続く好調。公私共に好調。『なんでですかね〜ボクね、好調なんですよ』安井。
まさにお手本のような押っつけを見せ、ライト前に運ぶヒットで繋ぎ一、二塁。

得点差は3点。しかし、ここからNLが誇る最強クリーンアップ!妙に変な期待をかけずにはいられないだろう!
ここで松永がいつもなら強打でチャンス拡大するところ、相手投手の僅かな制球の乱れを突き死球を受ける。

まさか……3点差最終回1死満塁……4番のひと振りで……まさかの逆転サヨナラ……誰もがそう言いかけて口を閉じる。
ここで4番・美澤が狙いを定めて打ち上げた打球は……スタンドには届かない内野フライ。力んだか~。

しかし、2死となるも、打席には樋口。もしや……NL初本塁打がとんでもない場面で炸裂してしまうのか……。
ここでネクストの岩井が『お~い、次の打者が誰だかわかってんのか~、四球でいいんだぞ~』と囁くも、軽く無視を決め込み神経を集中させた樋口がフルスイング一閃!……しかし、打球は真芯を僅かに外され、スタンドには程遠い内野フライに終わりゲームセット。

完敗とも思える内容から、最後は逆転サヨナラの場面まで演出させた指揮官は、『リーグ戦に繋がる、価値ある粘り』と絶賛。
いよいよ真夏の激闘を経て、秋の大勝負へ。NL2013最終章へと突入していく。

■平成25年7月28日/駕与丁公園/開始14時
△N.ライオンズ 1-1 Peeps△

NL:0 1 0 0 0 0 0: 1
:::1 0 0 0 0 0 0: 1

岩井ー中津

【経過】
前週の練習試合に快勝し、いよいよリーグ戦も終盤戦に突入。
同世代が次々と朽ち果てていく中チーム最年長にして未だ衰える事を知らないエース・岩井が夏場に来ても絶好調。
チームは不慮のアクシデントにより主砲・樋口を欠く以外、何の不安材料も見当たらない。

今後を見据える首脳陣の起用により、クリーンアップには岩井を抜擢。以下、下位打線を大幅に組み替え、このゲームに臨んだ。
ところがだ!順風満帆にリーグ戦を勝ち進んできたチーム状況の中、この日初めてといえるような厳しい試練を受ける事となる。

相手はチーム創成期以来、幾多の好勝負を繰り広げてきた、あのチームだ。
今季2度目の対戦を迎え、NLを知り尽くす老獪な代表は前回とはまさに別人のようなチーム様相で“打倒!NL”の牙を磨いできた。
そしてこの日、リーグ史上屈指の大死闘を演じる事になろうとは、この時点ではまだ誰も知るよしもない。

初回、好調なNL打線が早速動き出す。初回の先制点でアドバンテージを掴み、中押し、ダメ押し点で相手を圧倒する今季の戦い方がこの日も
出来るのか。口火を切るのはもちろん、不動の1番打者・久保だ!

前週に特大弾を放ち、相手外野守備がフェンス手前まで下がるほど警戒する中、先頭打者として的確にミートすると、そんな外野陣をあざ笑うかのような鮮やか押っつけを見せライト線へポトリ。
ライト前安打で出塁すると、警戒する相手バッテリーの隙を突き二盗成功。
2番打者へ負担を全く与えず得点圏を演出すると、続く“NL1イカしてる男”安井が捕らえた打球はレフトへ。しかしこれが正面を突くと、
ここからNL打線がもがき苦しむ鉄壁の相手守備陣が本領を発揮していく。

松永はまさにいつもと変わらぬ自然体で仕事キッチリの四球と二盗を決め1死二、三塁とすると、ここで復調の兆しを見せる4番・美澤。
振り抜いた打球は内、外野の間に舞い上がるが、ショートが追い付き確実に捕球……。
2死となるも5番に入る岩井が、謙虚にもチーム打撃に徹し四球。2死満塁と攻め立てると、続く府後が放った打球は難しいサードゴロ。
これも確実に仕留められ、初回は塁上を賑わせるだけ賑わせて、先制点を奪うには到らず。

いつもとは違う不穏な空気で初回を終えると、今度はエース・岩井がマウンドに上がる。
だが、こんな時こそ重苦しい空気を切り裂き、エースたる投球で流れを引き寄せたい!
が、しかし、経験豊富な大ベテランにしても悪い流れを断ち切れず、捕手・中津との呼吸も微妙に合わず先制の1点を許してしまう。
さらに追加点まで奪われるかという場面。ここで岩井が本領を発揮し、後続をピシャリと抑えてマウンドを降りる。

だが、ここで思わぬアクシデントがNLを襲う。外野守備の要・久保が守備機会中に右肘を痛め、大事を取りベンチへ。この一大事に不屈の
主将・岸本が老骨にムチ打ち自ら久保と交代。ベンチ入り野手を全員使い切り、早くも総力戦の様相を呈してきた。
すると2回、そんな危機的状況に打線が目覚めたか、先頭の吉武がセンター前へライナーで運ぶクリーンヒット。
さらに執拗な牽制をかい潜り、老骨にムチ打つ二盗を決めベンチの士気を上げる。
すると、1死から中津が気合いでセンター前へ弾き返す同点タイムリー。二走・吉武が生還し、すぐさまゲームを振り出しに戻した。
さらに勝ち越しの絶好の場面で主将・岸本。NL財閥の財力を生かし、チームに投入したNewバットで放った打球は痛烈にレフトを襲うも
真っ正面を突く……。
2死となるも久保が放った当たりはセンターへの大飛球!しかしフェンスまでは届かずに好捕され追加点ならず。

NL打線の打球方向に抜かりなく守備形態を敷く鉄壁の相手ディフェンス陣に、思わぬ大苦戦を強いられていく。
3回には好調・安井、松永の好打順も、それぞれライト、センターの好捕に遭い出塁する事ができず。
しかし、ここで魅せるのが4番・美澤だ。『これぞ主砲!』と言うべき鋭角なライナーでセンター頭上を越えると、一塁を蹴って当然の如く二塁へ。しかし、相手守備の見事な中継プレーの前に二塁ベース手前でタッチアウト……。次々と好守に阻まれ、さすがに焦りが生じてくる。

4回には『ここなら守備も追い付けないだろうよ!』と岩井が“くの字”で放った痛烈な打球はレフト頭上を越えワンバウンドでフェンス
オーバー。初老の底力を見せつけるエンタイトル二塁打で無死二塁。
絶好の勝ち越しのチャンスを迎えるも、府後が倒れ1死。
叩きつけた吉武の打球は投手の頭を越えるもショートの好守に阻まれ外野までは抜けず、2死……。
ここでMG深町の当たりは“らしい”右方向への飛球。しかし、“らしい”当たりが災いしたか、相手守備範囲の術中にハマり、ここも無得点。

僅差での攻防に、今度はNL鉄壁のディフェンス陣に焦りが生じてくる。
5回、岩井が先頭打者を打ち取るも、セカンドMG深町が丁寧に行き過ぎて打球を弾いてしまうと、さらに後続2者を出塁させ、無死満塁の
大ピンチを招く。全てが後手後手に回る展開となってしまう。しかし、ここからがNLのエースとして君臨する岩井の真骨頂。
3人の打者を相手に1人の出塁も許さず、バッタバッタとなぎ倒していく。ダテに年だけ取ってる訳ではない、不屈の魂でこのピンチを無失点
に切り抜ける!
しかし、一難去ってまた一難……。続く6回には守備率99.9%、“神様仏様…”の鉄壁の内野守備を誇る名手・松永の送球が逸れる一大事件勃発で出塁を許してしまう。
これに動揺した岩井は後続の出塁をも許し、5回同様、2イニング連続で無死満塁の大ピンチ。
同点の6回、1点が大きく勝敗を左右してしまう展開に、さすがの大ベテランも青息吐息……いつも以上に老眼で捕手・中津のサインがよく見えないか……いや、薄れゆく意識の中で、岩井の脳裏に苦しかった日々が思い浮かぶ。
昭和のシゴキ、スパルタ練習を耐え抜いた学生時代…オイルショックも、バブル崩壊も経験した強靭な精神力…アンチエイジングの一環として
若手にも負けない連日のハードトレーニングで鍛え上げたその肉体…今、その真価を発揮する時が来た!
中津のミットめがけて自慢の速球が唸りを上げ、三振で走者を釘付けにすると、最後まで衰えない球威で後続を抑え、得点を許さない。

2イニング連続で無死満塁を切り抜けたエースに、球場を囲む観客から称賛の拍手が鳴り止まない!
この岩井の生き様を無駄にするな!最終回、心の中で涙を流しながら先頭の府後がセンター前ヒット。
続く吉武の打球はチャンスメイクを、とばかりに食らいつきセカンド左を襲うも、打球方向を読まれた策士のセカンドに回り込まれ、4―6―3と渡る最悪の併殺劇……。
ここに来てまでも鉄壁の相手守備をかい潜る事ができず、同点のまま7回裏へ。
この時点でNLの勝利がなくなった。しかし、このしびれるような白熱の好勝負に負ける事は許されない。
岩井は再度、“勝負ふんどし”を締め直し、運命のマウンドへ。
気合いと裏腹にこの回も傾いた相手への流れを断ち切れずいきなりサヨナラの走者を許してしまう。
無死二塁、ここで岩井は詰まらせて一塁ファウルフライに打ち取るも、一塁手・吉武がまさかの落球。幾多の死闘を乗り越えてきたベテラン
でさえこの緊迫した場面に動揺を見せる。
さらに三塁にまで走者を進められると、NL守備形態はサヨナラ阻止の極端な前進守備へ。内野の頭を越されればその時点でゲームセットだ。
脳裏に“蛍の光”が流れそうになりながらも、三たび気持ちを奮い起こした岩井は気迫でサードゴロに打ち取る。
三塁手・美澤が猛然とバックホーム!しか~し、送球が中途半端なショートバウンドだ。名手・美澤にしてもこの場面で地に足がついていなかったのか~…誰もが目を覆いたくなった次の瞬間、懸命にホームを死守し続けてきた捕手・中津が好捕し、そのまま好ブロック!
見事にタッチアウトに仕留め、サヨナラの走者を阻止する大ファインプレーを見せた!

かつて、タッチプレーのアウトカウントを間違えて試合を落とし、1人寂しく暗い部屋の片隅で体育座りしながらうなだれて反省した中津が、
この絶体絶命の大ピンチにビッグプレーで応えた。
この弟分の感動の1プレーに心の中で涙した岩井はキッチリと冷静に、そして燃え盛る最後のローソクの炎のように、後続を斬って取り引き分けに持ち込んだ。
5回無死満塁、6回無死満塁、7回1死一、三塁……“岩井の3イニング~絶体絶命~”は、本人亡き後も、伝説として後世に語り継がれるであろう。

試合は最後の最後まで流れを掴めず、ほぼ一方的な防戦状態となりながらも負けを許さなかった。
指揮官はこの反省を生かし、リーグ後半戦に向けてのさらなる起爆剤を投入し、秋の決戦へ向けてチーム一丸、士気を高めていく。

■平成25年7月21日/榎田公園/開始15時
○N.ライオンズ 9-0 ブルーマリン●

NL::2 0 0 2 0 4 : 8
BM:0 0 0 0 0 0 : 0

勝・岩井 7勝1敗0S
○岩井・久保ー翔平・中津

本塁打・久保1号(ソロ)
打・久保 1

【経過】
着実にリーグ戦を消化するNLに、対外試合として初対戦となる相手チームが決定。
初老を抱え、平均年齢が大幅に上昇傾向のNLにとって、相手チームの若さがまさに脅威そのものだ。

早速、ゲーム開始前の整列で主将・岸本がある相手選手着用の帽子が某プロ球団と同タイプである事を指摘し、メンタル的な揺さぶりを早くも仕掛ける。
何気ないところで、何気なくアドバンテージを握る指揮官の強かさを受けゲームは初回から動いていく。

不動の先頭打者として打席に入ったのは“NLの核弾頭”久保。
2日前には独立リーグのゲームで攻守に大暴れし、この日午前中にも1試合こなし、“地球イチ忙しい草野球選手”として世界遺産登録を目指す中、研ぎ澄まされたフルスイングで打球はレフトスタンドへ向けて大きな弧を描く。
ベンチの誰もがスタンドインを確信する特大の今季第1号先頭打者ホームラン!見事な当たりで相手投手の出鼻を挫いていく。

『上空を飛ぶ飛行機めがけて打ちました』という一発で完全に勢いづいたNL打線は、続く“NLイチ旬な男”安井がすかさず痛烈なショートへの
内野安打。止まらない安井の絶好調ぶりに、続く松永がしぶとく四球を選んで繋いでいく。
一度繋がりだしたら止まらないNL打線は最高の形で不動の4番・美澤を迎える。
開幕から試行錯誤を繰り返す主砲への“劇薬”として、首脳陣が埋蔵金を放出しNEWバットをこの日までに用意。
バット置き場から迷いなくNEWバットを手にした美澤が、打席で渾身のフルスイング!おっ!打球はレフトスタンド一直線か!?とベンチ全員が
上空を見上げるも、打球はとんでもない高速回転をしながら地を這う内野ゴロ。
バットの最先端を捕らえた打球で凡打に終わるも、何か手応えを掴んだ主砲のひと振りに首脳陣の期待も徐々に高まっていく。
結局この回さらに相手エラーの間に得点し2点を先制した。

若い相手チームを横目に、マウンドに上がったのはチーム最年長にして、進化を遂げる初老、ストイックな老眼、年甲斐もない駄々っ子ジジイ、様々な異名を持つエース・岩井。
まるで親子ほど年の離れた相手選手を前に、『昭和のスパルタ教育を施してやるぜ』と意気揚々と、そして大人げないドヤ顔で立ちはだかる。
早くもベンチの首脳陣からは『調子に乗んなよ』のサインが出され、いつものように冷静さを取り戻し、初回を難なく0点で切り抜けた。

2回からは調子を取り戻した相手投手との投手戦を演じる。
岩井は走者を出しても冷静な対応で、捕手・翔平の構えるミットめがけ、ペース配分まるで無視の全力投球。
『バテ始めたら降板させよう』首脳陣の暑さ・老化対策を知ってか知らずか、岩井は最年長とは思えぬ無限のスタミナで投げ続け、相手打線に
得点を許さない。

そんなエースの力投に応えたい打線は4回に待望の追加点。
“NLイチ打席で輝いている男”絶好調・安井が渾身のフルスイング一閃!打球はレフトスタンドめがけて弾丸ライナーとなりベンチの度肝を抜くも、最後に失速しフェンス上段に直撃。
それでも打った瞬間にはホームランを確信し、『試合終わったら世界一カワイイ彼女とマリノアの観覧車乗ろう〜かなぁ〜』と考え走力を緩め
過ぎた為、まさかの一塁ストップ。
超特大のシングルヒットにベンチから怒号が響き渡るも、その余韻冷めやらぬまま続く“がばい安打製造機”松永が放った打球までもがセンターバックスクリーンに向け一直線!『これはいったやろ~』ベンチの誰もが叫んだ瞬間、またしても打球はフェンス最上部にぶち当たった。
打球に見入り、『観覧車からの夕焼けキレイやろゥなぁ~』と思いにふけり過ぎた一走・安井がまさかの二塁ストップで、これまた超特大のシングルヒットに終わる。

目の前で“大花火”を打ち上げられ、主砲の導火線に火が点かないはずがない。
続く4番・美澤が豪快に振り抜いた打球は、深い眠りを呼び覚ますかのような痛烈なライナーでレフト前へ運ばれるタイムリー!
前の打席でのスイングに手応えを感じた首脳陣の期待通り、貴重な一打で追加点を挙げる。
さらに樋口の代役として5番に抜擢された翔平に期待が集まると、ショートへの痛烈な打球が真っ正面を突き、6―4―3と渡る併殺打の間にキッチリ1点をもぎ取り、リードを4点とした。

『バテたら交代だ~』とベンチの首脳陣が見守る中、このクソ暑さでもまるでバテる気配がない、最年長エース。『だって、夏場の練習中に水飲んだ事ないから、こんな暑さでもバテようがないじゃん』と、昭和式の根性野球で鍛え上げたオイルショック世代が意地を見せる。
5回を堂々の無失点、完封がチラつき始め、ベンチ前で投球練習を繰り返す岩井であったが、指揮官はその横を素通りし、『ピッチャー、久保に交代』と、いつも通り老体をケアしつつの非情采配。
その後の対応も心得た岩井は、そそくさとベンチへと戻り、今度はしつこいまでのヤジ将軍に変身。
『だって、この継投がうちの形でしょ』と、思ってもない事を殊勝に語り始め、心の中で涙を流しながら観念し、無念の降板。
しかしそんな先発岩井は夏の暑さもなんのその。被安打2。7奪三振の好投だ!

最年長に触発された打線も負けじと6回、ダメ押し点を奪う。
岩井が出塁し、久保がNEWバットで見事な捌きを見せる芸術的なライト前安打。
すると今度は松永が三遊間をしぶとく破るタイムリー安打。
さらに主砲・樋口不在を感じさせない代役5番の翔平が豪快に右中間に運ぶタイムリー二塁打などこの回4点を挙げて勝負を決めた。

後を受けた久保が、『岩井さんとは全く違うピッチングで魅せます』と、短時間で打たせて取る投球術で締め、完封リレー。
暑さを考慮し野手を早めにベンチへ引き揚げさせる久保の投球内容に対し、岩井は『まあ…俺は、俺の…投球スタイルがあるから…』と慎重に言葉を選びながらも、貫禄のパワフル最長老は球場を後にした。

■平成25年6月30日/雁の巣①/開始15時
○N.ライオンズ 14-3 チームH●

NL:0 6 1 1 2 4:14
TH:0 0 2 1 0 0: 3

勝・久保 2勝1敗
○久保・岩井ー翔平

打・翔平 2

【経過】
うだるような暑さの雁の巣、そして、相手チームはNL創成期から馴染みのユニホームとあり、クラシカルな趣の一戦を迎えた。
前夜、チームのムードメーカーにして宴会部長・安井の発案による、大型新人・樋口の歓迎会を開催。
首脳陣含め主力勢揃いの怱々たる顔ぶれの中、超難関のNL入団に漕ぎ着けた樋口を全員で歓迎。
遠く関東の地からNLの球団HPを余す事なく読み尽くし研究に没頭。どの入団希望者よりも“NL愛”に溢れた樋口にとって、まさに夢のような宴
となった。

非常にいいムードで翌日のゲームに臨める…かと思いきや、参加者によるまさかの内紛が勃発。
日頃、久保の1番遊撃手としての素質を高く評価する主将・岸本が、この場に及んで自身の“ライオンズの背番号7、1番遊撃手”の代名詞的存在としての未練を延々と語り出して不穏な空気に包まれると、今度は選手会長・吉武が、草野球デビュー当時からこだわりのファースト守備を巡って、ここのところ同ポジションでの出場を続ける府後と一触即発。挙げ句の果てには、今季クローザーの座を守り通し好評価を受ける久保に
敵対心を燃やす安井も交え、酒の力を借りたベテラン勢の見苦しい“オレがオレが”根性を丸出し。遂にはメンバー同士の殴り合いに発展すると、
スタン・ハンセンの入場曲『サンライズ』が流れる中、宴会場をぶっ壊した挙げ句、生涯出入り禁止処分となるなど、良くも悪くも球団史に深く刻まれる一夜となった。

翌日のゲーム。何事もなかったかのように姿を現せたメンバーは、勝利へ向けて一丸となりウォームアップ。まさに、“平成の野武士軍団”の名にふさわしい光景を見せる。

前夜の影響からか、この日は定位置だった打順1番も、そして遊撃手も外れた久保に代わり、翔平が先頭打者として打席に入ると、じっくりと
見極めて四球を選ぶ。
まさに、1番打者としての仕事っぷりを遺憾なく発揮し、NL選手層の厚さをも実感させていく。
さらに俊足を生かして当然のように盗塁を決めると、好調の中軸へと繋がりを見せるも、この回は無得点。
旧知の相手という事で先発マウンドには、久保。エース・岩井の尻ぬぐい的リリーバーとしての貢献度は絶大。なおかつこうした先発の柱としてゲームを組み立てる能力にも優れる。相変わらずの安定感でこの日も初回を短時間で終わらせる。
暑さを計算にも入れたクレバーな投球術を、常に上から目線のエース・岩井が絶賛。『よ~し、よくやった!』と言うや、首脳陣からの鋭い視線に一喝され、意気消沈……。

2回、そんな久保のテンポの良さに触発されたNL打線が、遂に火を吹く。
先頭の樋口は是が非でもチームのために出塁を……という粘り腰から四球を選び出塁。続く久保も投球の疲れを微塵も感じさせない集中力で続き連続四球。
ここで吉武が自称・送りバントを的確に一、二塁間に転がし、1死二、三塁。『バットのヘッドが思いっ切り振り抜けてた気がしたんでが……』『いや、確実にバントで打球を殺したよ』という記録・明らかな内野ゴロでチャンスを拡大する。
続いて『投げてないんだから、打撃で貢献するぞっ!』と闘志ムキ出しの岩井が打席へ。いつもなら力み過ぎての凡フライを危惧させる
調子ノリ様に、ネクストの主将・岸本から『つなげよ!!』の無言のオーラが最年長の背中に痛いほど突き刺さる。
途端に冷静さを取り戻した岩井は四球を選び謙虚に一塁へ進み1死満塁。おいしい場面を演出すると、続く岸本が狙いすましたかのように初球を弾き返すレフト前タイムリーで先制。
沸き上がるベンチ。『つないどいて良かった~』ホッとひと安心の岩井。

さらに前夜、血みどろの乱闘劇を繰り広げた拳法3級の府後が、ベテランらしく詰まらせたセンター前タイムリーで続き追加点。
続かなきゃ。MG深町がプレッシャーの打席でガチガチになるも、拳法2級の眼力で投球された球をワンバウンドさせるオカルト技でバッテリー
エラー誘い、追加点。
『使える、使えるね~眼力。』重圧から解放された深町は潔く身を清め、空振り三振。

2死となるもNL打線の炎は鎮火せず、トップに返り翔平が相手投手の決め球を狙いすましたかのような、鮮やかなライト前タイムリー。
さらに4日間も連絡が途絶えるほど公私共に絶好調の安井が、特大の左中間突破の2点“支店長代理っス”タイムリー二塁打。
この回一挙6点を挙げ優位に立つと、続く3回には樋口が魅せる。先頭打者として打席に入ると、昨夜の宴で母ヒトミと祖母シモミの熱い思いを語ったままに『見ててくれ~!』と気合いの粘りを見せた挙げ句、四球出塁。さらに巨漢ながらも俊足の長所を生かした盗塁を決める。

2死となるも相手エラーの間に三塁まで進むと、打席には岩井。『ヘイ、ボーイ。俺が打席に立ってるって事はどういう事かわかってるんだろうな~』と、三塁走者の樋口にアイコンタクトを送るも、“NL愛”を貫き1点でも多くもぎ取りたい男は、捕手が弾いた僅かな隙を突き、本塁へ
激走。鮮やかに生還し1点を加えベンチでナインとハイタッチを繰り返す姿に、茫然と打席内で立ち尽くす岩井。
『俺の打点がぁ………』。気を取り直して打った放物線は左中間に弾む特大の二塁打。『ほら~、だから三塁で止まっとけって言ったじゃ~ん』年甲斐もなくしつこく女々しい最年長に『気楽な打席になって感謝しとけ~』……ベンチから温かい檄が飛びまくる。

さらに4回。2死無走者から翔平が死球を受けるも盗塁。得点圏に進むと、連絡が途絶えた4日間に何があったんだ~!?と思わせるほどの好調ぶりを見せつける安井が今度はセンター前 “結構ね、ボクの彼女ってぇヤキモチ焼きなんですよぉ” タイムリー。

5回先頭打者は美澤。人生最大のスランプ更新中の主砲に、早く一本が出てほしい……欲しい……出た~……当たり損ないのセンター前ヒット。“H”のランプが灯っても納得がいかない美澤を尻目に、ベンチは一斉に拍手喝采。
『な、慰めは、いりませんよ……』消え入るような主砲の叫びをよそに、ベンチはお祭り騒ぎだ。
相手エラーの間にこの回2点を加えると、6回にはさらにダメ押し点だ。

1死満塁から絶好調・安井。『打たれるより、当てとく?』当然のように死球を食らい押し出し点を加えると、続く松永がしぶとく三遊間を破る2点タイムリー。まさに昨年度の首位打者が役者の違いを見せつけると、復調目前・美澤の痛烈なサードゴロがタイムリーエラーを誘い、
盛り上がるNLベンチ。

すっかりNLの一員として溶け込んだ樋口は、今度は『山梨のシモミばーちゃん』に届けとばかりに痛烈なレフト前ヒット。
ナインから手荒い祝福を浴び、最年長からは『俺みたくなったな~』とエールを贈られるも、軽く無視を決め込んでみせた。
結局、先発の久保は『全然ダメっす』と言いながらも4回3失点にまとめる。

5回からは遂にエース・岩井がマウンドへ。
相手チームからその存在を意識され、軽く図に乗りながらマウンドに上がると、追い込んだ後にやっちゃったか…
禁断のトルネード投法×2連発!ベンチから主将が今にも飛び出しかねない勢いを、周囲のメンバーに制止され事なきを得る。

反省した岩井は何だかんだで貫禄の2回無失点でゲームを締め、結局、14-3で勝利。
昨日のNL集会と今日の試合の活躍で、どっぷりNL戦士となった樋口は『ボク、福岡の子になります。』試合後はヒトミとシモミを迎え入れる3世代住宅購入の為、不動産屋に向かった。

次戦からは真夏の7月戦線へ……NLの戦いはさらに加速していく。

■平成25年6月16日/春日公園/開始9時
○早良区Love 2-1 N.ライオンズ●

SL:2 0 0 0 0 0 0: 2
NL:1 0 0 0 0 0 0: 1

敗・岩井 6勝1敗0S
●岩井ー中津

【経過】
暑すぎる真夏日の6月、遂にリーグ戦の行方を左右する大一番を迎えた。相手は昨年度覇者・NLの前に立ちはだかるのは、過去2度リーグVの
栄冠を掴んだSL。
この一戦に相応しい球場としてマッチメイクされたのは、高校球児の聖地・春日公園野球場だ。

これ以上ないシチュエーションに、NLナインの緊張感は一気に高まりを見せる。
高まり過ぎて、球場入口がわからず迷子になる選手が続出。大一番にも関わらず、いつも通りのドタバタ劇だ。

ここで、試合直前にNLの根底を揺るがす衝撃のニュースが飛び込んできた。
チーム№1のバットコントロールを誇るばかりか、類い稀なセンスで長短打を量産。勝負強さも兼ね備え、守備に至っては断トツのゴールデン
グラブ賞レースを独走する、NL中心選手の松永が、まさかの緊急欠場。
本人は前日まで集中トレーニングを積み、この大一番に懸けていただけに、まさに無念……。

この大ピンチにいても立ってもいられず、満身創痍のベテランが緊急合流した。
右前腕部筋挫傷による全治2ヶ月の重症をおして、痛み止めの注射を打った吉武が強行出場に踏み切る。
攻守に不安を覗かせるが、同じくベテラン一塁手の府後までもが股関節痛を発症。その2人が試合前にキャッチボール。
どちらも非常に危なっかしいものの、年長者の吉武が自ら志願してファースト守備での先発出場を決めた。
『体が動く限りやる!』……松永の無念を全員でカバーしようと、ナインが結束する。
ベテラン勢の不安材料は最年長・エース岩井にまで伝播してしまったのか、立ち上がりの初回、エンジンがかかり切る前に相手打線に捕まり、
2点を失ってしまう。
責任を感じてか、マウンドを降りベンチに入るまで終始うつむき加減。いつものオヤジギャグすら出る気配もなく、周囲の檄も聞こえていない。

そんな手負いのベテラン勢を励まし、チームを鼓舞するのは、まさにこの男しかいない!
先頭打者として打席に入った久保が相手投手の球筋を見極める間もなくフルスイング!打球はグングン伸びて116メートルあるセンター最深部に達するかというほどの特大の当たり。
打球が転々とする間に、久保は俊足を生かして二塁ベースを蹴り、当然のように三塁へ。“Mr.スリーベース”の異名通り三塁に到達するかと
思いきや、相手守備の僅かな乱れを突き、一度減速しかけるもサードベースを蹴って一気に本塁へ。
相手守備必死の返送も久保の勢いを止める事はできず、まさかのベース一周で生還。ひとりで1点を返し、早くも1点差とすると、続く2番の
安井までもが目の覚めるようなレフト前へのライナー安打!
“松永の穴を全員でカバーする”……1、2番の炎の連打で強力クリーンアップへと繋ぐ。しかし3~5番がそれぞれ凡退し初回は1点のみ。

2回以降、今度は沈みかけた初老・岩井が蘇る。直球、変化球が決まり出し相手打線につけ入る隙を与えない。これぞリーグを代表するベテラン右腕の真骨頂だ!
しかし、初回以降ゲームの動きがないまま、結局最後まで1点差スコアのまま敗戦。
『この借りはプレーオフで返そう!』
NLナインの誓いを胸に、球場内の施設を思う存分散策し、記念の球場を後にした。

■平成25年6月9日/箱崎公園/開始15時
○N.ライオンズ 10ー0アローズ●

AR:0 0 0 0 0 0 0: 0
NL:0 3 1 1 0 5 x.: 10

勝・岩井 6勝0敗0S
○岩井ー樋口

打・岸本2

【経過】
開幕ダッシュに成功し、現在ブロック首位のNL。シーズンも中盤戦を迎え首位固めをする為にも重要な6月決戦。
NLの御旗の下に全国各地から選手が集結した絆のチームN.ライオンズ。かたや上司という権力を振りかざし、力でねじ伏せチームをまとめているアローズ。相反するチームの激突となった。

NL先発は初老期を終え、次なるステージへ片足を突っこんだが、ますます進化するオッサン『中老・岩井』
今年の課題でもある立ち上がりの悪さ。この試合も初回から得点圏に走者を置く苦しい展開だか無得点に抑える。

初回の攻撃。一死から好調を維持し続ける2番安井が痛烈な『秋に彼女とディズニーランド行くんすよ』レフト前安打を放つが、アローズ先発の
唯一無二の緩急で独創的な投球術で後続を抑えられ無得点。

2回の表。立ち上がりの不安定さを引きずる岩井はまたもや得点圏に走者を置いてしまうが、この回のアウト2つを三振で取り、球に力強さが戻ってくる。
何とか岩井を援護したい攻撃は2回裏。相手主将の愛車の助手席側ドアにはハードタイプ。運転席側にはソフトタイプと、緩急をつけた鼻くそを
添付するブロックサインを出すと、我慢で掴んだ2つの四球で2死1、2塁。主将・岸本の右前タイムリーで先制。

先制して気が楽になった先発岩井は3回を三者三振に斬って取り、完全に復調を見せる。
3回裏には府後、4回には安井の『秋に彼女とディズニーランド行くんすよ~。さっきも聞いたよタイムリー』で小刻みに得点し完全にペースを
掴むと、5回は得点こそなかったものの7番小田が3児のパパとなった初試合で痛烈な左前ヒットを放ち、この日3度の出塁。

更に勢いが止まらないNL打線。6回裏には無死2、3塁から久保の中前タイムリー、その後無死満塁とするが2死となり打席には真新しいNL
戦闘服に身を包んだ5番樋口。走者一掃の右中間突破の2塁打を放ち塁上で拳を突き上げる。めっちゃ似合うやん。めっちゃカッコええやん。

先発岩井は最後までマウンドに立ちつづけ、圧巻の14奪三振の完封勝利。
梅雨入りした6月決戦の頭を勝利し、首位を確固たるものにする為にもまだまだ湿るわけにはいかない。

■平成25年5月12日/雁の巣①/開始15時
○N.ライオンズ 5-1 Peeps●

ii:1 0 0 0 0 0 0: 1
NL:0 1 1 3 0 0 X: 5

勝・岩井 5勝0敗0S
○岩井・久保ー中津

打・美澤 2

【経過】
オープン戦と連休を挟み、約1ヶ月ぶりにリーグ戦を再開させたNL。
この日の相手は過去10年来、幾多の激闘を繰り広げてきたPeeps。互いに手の内を知り尽くしてるとあってゲーム前から緊張の糸が張り詰める。
“名勝負数え唄”を奏でてきた常に僅差の好勝負を演じてきた宿敵だ。

その相手チームは前夜、“打倒!NL”を旗頭に決起集会を早朝まで実施するほどの熱の入れ様。
さらにNLの指揮官が策士ならば、相手代表の指揮官も策士。まさに名将対決の幕が斬って落とされた。

久々の先発マウンドに上がったNLエースにして最年長、生ける伝説、生きた化石…幾つもの異名を持つ岩井がまさかの大乱調。
制球に苦しみ、早くも1点を失う。この回だけで30球以上を要し、長~い守備時間に野手の集中力も散漫になってきた。
しかし、ここからが単に年を食っただけではない、最年長右腕の真骨頂が発揮される。
ヨレヨレの投球でようやく2死まで漕ぎ着けると、ここから突如目覚め、3アウト目をとんでもない球威と制球のストレートで三振に斬って取る。最終的には最小失点で食い止める…まさにエースの意地だ。
『最初からやっとけ~』ベンチの温かい拍手を受けてこの回を乗り切ると、あとはNL“骨太っ!”打線の出番だ。

先頭の久保は今や手がつけられない。この2日前、試合間隔を埋める調整の為、国内独立リーグの試合に出場し1本塁打1三塁打。振れば長打の勢いそのままに第1打席も迷わず初球を捕らえる。グングンと伸びた打球は背走する左翼手の頭上を越えるかに見えたが、まさかの好捕に遭う。まさに紙一重の一打で先頭出塁を逸すと、後続も倒れ初回は無得点。
2回先頭の翔平がシュアな打撃でセンター前安打を放つ。
続く打席はこの一戦に備え打順昇格のMG深町。1点を追う状況で送りバントか…早くも心理作戦、NL指揮官の仕掛けが相手バッテリーの動揺を誘ったか、深町が強打した打球は遊撃手を襲う強襲の内野安打だ。

1死となるも、指揮官の緻密なデータ戦略でこの打順に入るベテラン・吉武の存在も不気味だ。相手捕手を務める代表指揮官に囁きで引っ張りの打撃を匂わせておいて、調整通り、遊撃手の横を襲う内野安打で1死満塁とチャンス拡大。
前夜の決起集会で泥酔した遊撃手を右に左に揺さぶり、ここで打席は一難去ってまた一難、NL指揮官の岸本。
相手捕手の指揮官とはまさに、タヌキの化かし合いだ。とんでもない裏のかき合いの末、ここは三振に仕留められる。
ようやく2死となるも、打席はまたしても相手にとっては厄介なベテラン・府後。このボディブローのような精神的追い込み作戦で心身共に疲弊した相手バッテリーから、府後がキッチリと見切っての押し出し四球を選び同点。
なおもチャンスは続き岩井。『風もあるし、いっちゃう?』という思惑バレバレの打席は、さすがの相手指揮官のリードで変化球攻めに遭い豪快な空振り三振。
『…ったく、1人で野球やってんじゃね~んだぞ~』というベンチの冷たい無言の視線が突き刺さるような被害妄想を受けながらも、最年長は
謙虚に、そして足早に次の回のマウンドへ。

それでも同点に追いついてもらい、絶好調モードに切り替わっていく。
キレキレのカーブが絶妙に決まると、まだ2ストライクなのに、年甲斐もなく両手を挙げて万歳ポーズだ。
『課題は追い込んだ後だろ~!』…ありえないのに、ナインの眼差しを冷たい視線と勘違いし、自意識過剰なまでの被害妄想で自らを戒めた岩井は、謙虚にこの回をキッチリと抑え、足早にベンチへと戻る。
そんな最年長を早く精神的に楽にさせたい打線は3回、1死から指揮官期待の超攻撃型2番打者・安井が目の覚めるようなレフト前
クリーンヒット。
相手バッテリーミスで得点圏へと繋がると、絶好の勝ち越しチャンスで、最も頼れるクリーンアップを迎えた。
ここで絶好調の松永が相手指揮官の巧みなリードでまさかのショートフライに打ち取られる……。
しかし、NLにはこの男がいる…4番・美澤だ~!!
人生最大の打撃不振に悩む主砲のバットから、久々に聞いてみたいぜ快音~!ここで美澤は真芯で打球を捕らえる事はできなくても、気迫で
押し込むセンター前ポテンの勝ち越しタイムリー!

4回にはダメ押し点だ。
先頭の中津が確実に出塁を目指し四球を選ぶと、二盗を決め無死二塁。
ここで吉武が『今度は引っ張るよ』的な匂いを醸し出しつつ、相手指揮官の裏をかいてまたしても逆方向へ。打球は巧みに計算された風に乗り、左翼手の頭上を越えるタイムリー二塁打。さらに続く岸本。2回に続き相手指揮官との騙し合いに入るが、1打席目凡退した際に撒いた巧妙な
エサを利用し、今度はセンター前への雪辱タイムリー。二走・吉武が本塁への激走、さらに相手守備陣の隙を突いて岸本が進塁するなど両ベテランの“黒い”活躍でリードを広げると、気が楽になり気が大きくなりかけた岩井が打席へ。

『もう決めちゃっていいのかな~』とフルスイングした打球はレフトスタンド一直線か!?と思わせるライナーとなるも、一歩伸びが足りず左翼手のグラブへ。しかし、ここも三走・岸本の激走でタッチアップとなり、犠牲フライでさらに追加点。合計120歳超のベテラントリオが老骨にムチ打つ活躍を見せ、リードを4点と広げた。

6回からは久保がマウンドへ。ベンチへ下がった最年長のイラッとする励ましの野次を受けながらも、久保は2回を無得点に抑えゲームセット。
岩井は無傷の5勝目。打っては4番の決勝打にベテランのダメ押し打。まさにNLの層の厚さを物語る快勝にも指揮官は、『次も10年来の宿敵が待ち構えている』と、次戦の難敵を警戒していた。

■平成25年4月21日/汐井公園/開始17時
○レッド・バイソン 1-0 N.ライオンズ●

RB:0 0 0 0 1 0 0: 1
NL:0 0 0 0 0 0 0: 0

敗・久保 1勝1敗1S
岩井・●久保・美澤ー翔平・中津

【経過】
リーグ戦日程の合間に今季初のオープン戦を開催。
しかし、単なる調整試合ではない事は、その相手に強豪チームをマッチメイクした事でもよくわかる。
日頃のリーグ戦では試せない部分を実践すべく、首脳陣はNLデータ室で解析作業に没頭。
特にこの日はディフェンス面に重きを置き、鉄壁の守備形態を敷いて臨んだ。
初回、屈強な相手打線を前に、NL最年長・岩井の闘志が全開となる。
この日は挙式を一週間後に控え心身共に絶好調の翔平とのバッテリーで果敢に攻め込み、計算通り内野ゴロの山を築いていく。
ここで首脳陣の選手起用が早速、実を結ぶ。この日サードに入ったNLの“Mr.ゴールデングラブ”松永へ難しい打球が連発するも、これを難なく
捌いてアウトにしていく。
しかし、相手投手も一筋縄ではいかない。今季ここまで驚異の1試合平均10.17得点を誇るNL“骨太っ!”打線をしても完璧に封じ込まれ、
得点のチャンスすら掴めない中、両先発の熾烈な投げ合いで両チーム0行進が続いていく。
翔平の巧みなリードもあり、先発・岩井は4回まで無失点。打線が得点できない事で勝ち投手の権利を得ないままマウンドを後続に託す事になる。

ベンチでは『自分の記録なんて、どうでもいい。チームが勝ちさえすりゃそれでいいんだ!』
とブログ写真用の凛々しい表情を見せポーズを決めながらも、ベンチ裏では『やっぱ勝ち越すまで投げたかったよね~』と、私欲まる出しの態度に出た為、指揮官の至近距離からのライダーキックを浴びた。

5回からは久保がマウンドへ。昨シーズン無敗、連勝記録更新中の右腕に勝利のバトンを託した。キャッチャーには気心知れた中津を起用し、抜かりない布陣を敷く。
が、しかし、相手打線も強力だ。久保の制球力がはね返され、遂に1点を献上すると、なお得点圏に走者を置き、次打者の打球は左中間を痛烈に襲う大飛球。
長打を覚悟した次の瞬間、センターが颯爽と俊足を飛ばして打球を最短距離で追いかけ、最後はジャンピングキャッチの大ファインプレー!
首脳陣のデータ解析通り、この回からセンターへ回っていた翔平が、身を固めても身軽な動きで連打を食い止め、この回を最少失点で切り抜けた。

絶体絶命のピンチを切り抜けた久保は次の回を無失点に抑えマウンドを後に、3番手として、遂に豪腕美澤が満を持しての登板。貫禄の投球術で0に抑えると、スコア僅か1点差のまま最終回を迎えた。

先頭は岩井。この日は前の打席でチーム初安打となるレフト前ヒットを放っている。老眼なのによく見えてると思われたが、
『この薄暗い上空でよく球が見えないんだよね~実は』と周囲の度肝を抜く爆弾発言のまま打席に入り、今度はクサい当たりのセカンド内野安打を放つ。まさかの老眼効果だ。
『こうなったらアグレッシブな走塁もしちゃうよ』と、続くMG深町の内野ゴロで老体にムチ打ち懸命のスライディングも二塁封殺。
ズタボロの状態でベンチへ。……最年長の死を無駄にしてはならない……。
2死、あとひとりとなるも、このままあっさりと終わらせないのが、NLの真骨頂。
必ず見せ場を作る……打席に入ったベテラン・小田の目がギラリと光る。口元に付着したお昼に食べたハンバーガーのソースもテカる。
相手投手の剛球に食らいついた打球は、振り抜いた分だけ気迫が勝りセンター前へポトリと落ちた!繋いだ!
こうなると、NL野球の申し子・府後に全てを託してもいいだろう。
しかも、ネクストには主将・岸本。かつて逆転サヨナラ劇を演出した、『おいしい所なら持っていっちゃうぞバカヤロー』な面々が控えている。
この絶妙な打順が、最後の最後で効果を発揮した。
ここで勝負師と化したベテラン府後の打球は鋭いライナー!……となるも、ライトの真っ正面……ああ万事休す……。
まさに、オープン戦とは思えぬ死力を尽くした激闘に、両チームを讃える拍手が鳴りやまない。
今季初黒星を喫したものの、数字以上の収穫を得て、次のリーグ戦へと戻っていく。

■平成25年4月14日/駕与丁公園/開始16時
○N.ライオンズ 7-1 シャークス●

NL:2 0 0 3 2: 7
SH:1 0 0 0 0: 1

勝・岩井 4勝0敗0S
○岩井ー中津

打・吉武 1

【経過】
1分けを挟み4連勝と開幕ダッシュに成功したNL。しかし、この日は同じくリーグ戦不敗を誇る強豪チームが相手。
前半戦最大の山場、早くも天王山を迎えた。
球場入りしたエース“初老”岩井はやや緊張した面持ちで『何か今日、ギャラリー多くね?』。
『天王山だからね。特にHPのブログとスコアでイジられてる岩井さん見たさに大フィーバーっすよ』と言われ、『そっか~。よ~し今日も
張り切っちゃおうかな~』と早くも臨戦態勢へ。
巧みな操縦法で最年長を活かすと、初回からNL“骨太っ!”打線までもが便乗的に機能した。

先頭の久保は激しいジャンプトレーニングの成果でさらに足腰を強化。じっくりと見極めて四球を選ぶと、1死となるもヘッドスライディングでの二盗に成功。
得点圏に進むと、ここで驚異のバットコントロールを誇る3番・松永は、“伝家の宝刀”職人気質の重量木製バットから無駄のないスイング一閃!
打球は左中間を破る大飛球となり先制点を叩き出した。
さらに続く美澤の打席ではまさかの連続内野ゴロエラー。続く吉武の内野ゴロの間にあっさりと2点目を挙げる。大一番の異様な雰囲気の中、
早くも初回にゲームは動いた。

先制してもらいマウンドに上がるエース・岩井だったが、立ち上がりから気合いが空回りする。
制球が定まらず1点を返されなお、2死満塁の大ピンチを背負うと、続く打者には置きにいったストレートを弾き返されレフト後方への大飛球…交錯する悲鳴…ああ、走者一掃の逆転タイムリーか…と、誰もが思った次の瞬間、巨大なシルエットが猛然と打球を追い、最後は難しい半身になってのジャンピングキャッチ!左翼手・樋口がチームの、そして岩井の窮地を救う大ファインプレーを見せ、大歓声の中ベンチへと戻っていった。
傾きかけた流れを食い止めると、2回からは両投手の我慢比べが始まる。調子を取り戻した相手投手に2、3回を三者凡退に抑えられると、
負けじと岩井も0に抑えていく。まさに、天王山に相応しい緊迫感漂う攻防に、詰めかけた大観衆も固唾を飲んで見守る。

緊張でリバースしそうなエースを早く援護したい打線は4回、今度は長打攻勢に出る。先頭の2番・安井が好調な打撃で左中間を深々と破る
二塁打で出塁。続く松永はまたしても右中間への大飛球。2打席連続のタイムリー二塁打でリードを広げると、ここで4番・美澤を迎え一気呵成に大量得点の大チャンス。主砲の目が光る。狙いを定めて…定めて…定めすぎて結局、止めかけたバットにコツンと当たるまさかの
ピッチャーゴロ。『4番がやられた…』ベンチのため息の中、ここでチャンスを切らしたくないところで打席はベテラン・吉武。
こちらも狙いを定め、痛烈にレフト前に弾き返す得意の逆方向でチャンス拡大。お膳立てが整ったところ、初回のビッグプレーで波に乗る樋口がこちらも逆らわず右方向へ。しかしまるで打球が引っ張ったかのようにグングンと伸びてライトの頭上を越し2者が相次いで生還。2点タイムリー二塁打となり、この回3点を追加した。

5回、今度は繋ぎの単打で追加点だ。1死から府後の芸術的な、引き付けて押し込むライト前安打。続く岩井は風を計算に入れてのスタンドインを目論むも、痛烈な死球を浴び、『なんで、こう~なるの~』と悶えながら一塁へ。
2死一、二塁となるも、ここで私生活も“絶好調男”安井。
センター前に『年に一度は彼女とディズニーランドに行くって決めてるっすタイムリー』を放ち確実に追加点を奪うと、さらに松永が猛打賞となるタイムリーをライト前へ。『バットの根っこでしたよ~』と平然と言い放つ鮮やかな右打ちでダメ押しの7点目。

さらにこの日の興味は、敢えて6番に据えた和製大砲・樋口。首脳陣でもある吉武が第3打席でもライト前安打しマルチを決め、『樋口君はいずれ5番を任せる逸材だが、簡単には渡さねえ。テメエの力で勝ち取ってみろコノヤロ~!』と闘魂全開で世代闘争を宣言したものの、続く樋口の打球は長打のあとのレフト前安打。あっさりとその壁を乗り越えて、“5番当確”を決めた。吉武は『まあ…今日はこのくらいにしといてやるよ…』と捨て台詞を残しながらも、次戦からのクリーンアップ昇格を決定した。

最後は最年長エースがビシッと締めて…と思われた最終回、まさかの展開が待ち構えていた。
岩井登板時まれに起きる、特有の締まらないイニングが最後の最後に訪れ、あれよあれよという間に2死満塁。
一打でゲームの行方すらわからない状況に、岩井の表情が生気を失い凍りつく。
しかしここで最後の力を振り絞って投じた一球は力のないピッチャーフライだ。打ち取った!ここはファーストに任せるか…いや、マウンドを
ヨロヨロとした足元で降りてきた岩井が捕球態勢へ…嫌な予感…これまで何度、こんな当たりを落球したか…誰もが心配し固唾を飲んで見守る
瞬間、やはりと言うべきか岩井のグラブからボールがポロリ……。
『ほら見たことか~!』『何回やってんだ~!』『またかよオイ~!』
エースに非難殺到…誰もがそう思った次の瞬間、まるでこぼれたボールの落下地点を予測したかのように、カバーリングに入った
ファースト・吉武が地面スレスレでキャッチ!恍惚の表情で見守る岩井。一瞬の静寂を置いて、悲鳴が大歓声に変わる……。

そして、もうこれ以上はいいだろう…という神のお告げのように、突然天気が豹変。激しい雷雨に見舞われ、ヒョウも降ってきた。
天王山はとんでもない状況の中で、劇的に幕を降ろした。

■平成25年3月31日/汐井公園/開始15時
○N.ライオンズ 17-1 マスタング●

MS:0 0 0 1 0 0: 1
NL::4 2 0 4 7 X:17

勝・久保 1勝0敗1S
○久保・岩井ー中津・翔平

打・安井 1

【経過】
今季初、“主砲”4番・美澤を欠く緊急事態に、打線の奮起が期待されたこの日。
注目の4番は、当日スタメン発表時まで首脳陣の極秘シークレットとされ、誰もが固唾を飲んで発表を見守る中、なんとチーム最年長“初老”
エース・岩井が大抜擢。
前回、まさかの最終回2死から浴びた同点打を悔やみ、自宅では全ての灯りを消し、ロウソクだけを灯した薄暗い部屋の片隅でジッと体育座りをしながら一週間を過ごした岩井にとっては、願ってもない朗報だ。
『早速、妻にメールしなくちゃだよ!』

さらにこの日『昔使っていたやつだよ』と、かつてホームレス仲間を数十人撲殺した際にも使用した愛用の金棒を持参。
『今日はこいつで活躍しちゃうよ〜』と意気揚々だ。
ひとり悦に浸り、全員に見えるよう金棒で素振りを繰り返す岩井の前を素通りで置き去りにしながら、NLナインは足早に球場入り。

だが、さすがは首脳陣、押さえるべきポイントはしっかりと押さえ、萎みかけた最年長を蘇らせる作戦に出たのだ。
この起用が吉と出るか、凶と出るか……。

初回、今季初先発となる久保が相手打線をしっかり斬って取り無得点に抑える。
先発でもリリーフでも、そして抑えに回してもキッチリと果たす仕事は同じだ、とばかりに淡々とした表情でマウンドを下りる。
と、その裏、早くもNL“骨太っ!“打線が一気に火を吹いた。

早速マウンドから戻ってきていつものように先頭打者として打席に入った久保が四球を選び出塁。二盗成功は当然のセットメニューだ。
1死から松永がこれまた当然のように四球を選び、迎える4番打者に最高のお膳立てを果たす。
『頼むぞー』『何とかしろー』『やれんのかー』
ベンチからの心のこもった熱い大声援を背に受け、やや口元が緩んだような表情で打席に立つ岩井。
『みんな、見ててくれ』
いつもなら不必要なまでの大振りで周囲の度肝を抜く最年長も、この日はいつになく慎重だ。
クサい球を見逃してエサを撒き、俺のポイントに来た球を待ち構えて……キタァ~……得意の“く”の字フルスイングから放たれた打球はまさかのサードゴロ。
しかしあまりに気迫のこもった打球に焦った三塁手のエラーを誘い一塁でセーフ。1死満塁を演出だ。
『良かったねー』『さすがー』『持ってるねー』
ベンチも拍手喝采だ。
ここで『4番であれかよ』といった表情で打席に入った安井が、こちらはものの見事にレフト前クリーンヒット!
2点タイムリーとなり、貫禄を見せつけた。

さらに1死一、二塁。こうなるとやる事はひとつ。
吉武がまるで送りバントを決めるかのようなボテボテの進塁打で走者を進め、続く中津のサードゴロが失策を誘い2点を追加。
止まらない打線はさらに主将・岸本がレフトへ鋭い当たり……しかし野手の真っ正面を突く不運。
それでも勢いは続く。2回には遂にあの男が決めてしまった。2死満塁、またしても最高のお膳立てに発奮した4番・岩井が今度は正真正銘、
血染めの金棒でセンター前へのクリーンヒット!2点タイムリーとなり、一塁ベース上でベンチに向かい快心のガッツポーズ!
しかし、選手は次のイニングに向けての準備に入っており、まさかの無反応……。『この振り上げた拳はどうしたらいいの……?』と蚊の泣くような声で一塁コーチャーに囁く。4番の仕事をキッチリと果たした岩井の活躍でリードを6点に広げた。

さらに4回には恐怖の下位打線が火を点け、府後、MG深町が連続四球。
1死からこの日今季初出場の翔平がベンチで見守る新妻の前で左中間を深々と破るタイムリー二塁打。さらに松永も誕生したばかりの我が子の前でセンター前タイムリー。両者のメモリアルショットでベンチ内を盛り上げると、『じゃ俺からは祝砲ね』と4番が打席に向かう。

遥か遠方で見守る家族を想いながら、快心のフルスイングはボテボテのショートゴロ……その間に1点を追加。
『見てくれた?俺のスクイズ』とこの日3打点目となる当たりでリードを広げると、さらに4得点。
こうなると久保の投球が一段と冴えを見せてくる。コーナーに的確に投げ分け、ピンチにも動じない圧巻の投球術。
結局、4回1失点で余力を残したままマウンドを降りると、『じゃ次はピッチングで魅せるよ』と、最年長エース・岩井が5回からマウンドへ。

なぜか久保の時には鉄壁だった守備陣が、突然バタバタとなりピンチを招くも、さすがはエース。後続をピシャリと斬って0に抑える。
5回裏、1点を追加した後、リーグ屈指のラストバッター、MG深町が“らしくない”痛烈なレフト前タイムリー。さらに3点を追加した後、
今季は新車とNEWバットで『新しい俺を魅せる!』中津がダメ押しのレフト前2点タイムリー。この回も7点をもぎ取った。

最終回も適度な守備の乱れに足を引っ張られながら岩井が無失点に切り抜け、結局17対1のスコアで勝利。
引き分けを挟み開幕4連勝を飾ったが、まだまだチーム状態はMAXではい。
首脳陣は『今日欠場の4番と、新戦力の大砲が合流してからが本当の勝負』と、次なる戦いに向けての豊富を語った。

■平成25年3月24日/駕与丁公園/開始14時
△N.ライオンズ 3-3 ブルドッグス△

BP:0 0 0 0 0 1 2 0:3
NL:0 0 0 0 3 0 0 0:3

岩井ー中津

【経過】
全国各地津々浦々へ編成部隊を配置し、明日のNLを背負って立つ逸材を求めてのスカウティング活動には余念がない首脳陣。
今季の新入団選手は国内外十数球団との競合を制し、平成に蘇る囲い込みの末この日めでたく支配下登録を終え、待望のデビュー戦を迎えた。
試合は先々週と同一カードながら、今回はホームゲーム。地の利を生かした戦いを演じたいところだが、最後の最後のゲーム終盤でとんでもない
展開が待ち構えていた。

先発マウンドには開幕3連勝、突け入る隙を見せない“初老”岩井がマウンドに上がる。試合前にはキャプテンから完投指令を受け気合い十分。
前回登板同様、危な気なく立ち上がり、初回無失点に切り抜ける。

その裏、先頭の久保がキッチリと四球を選び出塁。主力にしてまだまだ勉強中とばかりに独立リーグの試合で調整し、好調を維持する久保が
幸先良く二盗を決め、早くも得点圏へ。
一方的な展開となった前回同様、一気に畳み掛けたいところだったが、首脳陣は『今回はロースコアの凌ぎ合いになる』と冷静に分析。
その言葉通り後続が打ち取られチャンスを逃すと、ゲーム中盤まで息詰まる投手戦へ。

しかしエース岩井も絶好調だ。『今日は球が全然いってねえ』と自慢気な顔で自嘲気味に話すが、その表情には自信がみなぎる。
だが、誰も褒め言葉を掛ける者はいない。その後のイラッとするほどの有頂天→自滅パターンを熟知しているからだ。
3回、2死から吉武がレフトへ自称『高度な空中イレギュラー打球』を放ち失策を誘い出塁。
小賢しい打球の後は老骨にムチ打つ二盗でチャンス拡大。
このお膳立てにベテラン同級生・岸本が応えた打球は、これまた小賢しい二、遊、中の間へフラフラと上がる飛球。落ちれば先制点……しかし、
相手守備の好守に阻まれ得点ならず。

相手が好守ならこちらも負けてはいない。名手・サード松永が再三に渡るポイントでファインプレーを連発。
この日初出場のレフト樋口には“これでもか!”というほどのクサい打球が連発するが、落ち着いて捌きまくる。そんないい流れに打線が乗って
行かない訳にはいかない。5回、先頭の中津が四球を選び出塁すると、俊足強肩捕手の持ち味を生かし二盗成功。
さらに相手守備の乱れで三塁を陥れるも、ここで後続が連続三振。またしてもチャンス逸したかと思わせたが、ここで打席には岩井。
『何かやるかやらかすか……』誰もが期待する打席でバッテリーエラーを誘い三走・中津が生還。『泥臭ぇ~』先制点を挙げると、役目を終えたとばかりに岩井は四球を選び繋ぎ役に徹する。
ここで迎えるは新入団ながら契約未締結の為、ラストバッターとして打席に入る樋口。
願ってもない追加点の絶好の場面で、巧みに右へ押っつけた打球はグングンと伸びてライトの頭上を越えた~!一走・岩井が二塁、三塁ベースを
蹴りホームへ。途中、最年長らしく足がもつれ絡まりそうになりながらも走り切り激走ホームイン。打った樋口も巨体らしからぬスピーディーな走りで二、三塁間に挟まれながらもタッチをかいくぐり三塁へ。
樋口の劇的なデビュー戦タイムリー二塁打で2点目をもぎ取ると、トップに戻り好調・久保がキッチリとセンター前タイムリー。ようやく繋がりを見せたNL打線が5回に3点を入れ、得意の逃げ切り態勢へ。

しかし、ここまで本調子ではない球の走りも老獪且つ気合いで要所を締めてきた岩井のピッチングにほころびが出始める。
そんな時こそ再び野手陣で盛り立てていこう!の思いも虚しく、久々出場の二塁手・MG深町がバタつき1点を失い、なおも満塁の大ピンチ。
一打同点、いや逆転のピンチに、再び打球は二塁後方へ……誰もが同点を覚悟した場面で、最後の最後にMG深町が祈りにも似た拝み捕りでキャッチ。まさに魅せるベテランの本領発揮で2点リードのまま最終7回へ。

最年長タフネスの岩井だが、本来の投球が取り戻せない上にゲームの流れも悪い。スタミナも心配されるがエースに首脳陣は続投を指示。
意気に感じ最後の力を振り絞りマウンドに上がる。1点を失うが、すでに2死、あと1人だ……
しかし、手痛い痛打を浴び無念の同点へ。土壇場でゲームは振り出しに戻り、今季初の延長戦へと突入。

もはや継投は必要なし。エース・岩井が8回のマウンドに向かうと、ここをキッチリと抑え無失点。
このゲームの負けがなくなり、いよいよ延長8回裏、最後の攻撃へ。しかも打順は下位ながら、一発長打を秘めた打順で岩井。
NL史上2度目のサヨナラ勝ちの匂いがプンプン漂ってきた。
もはや息切れを通り越し、干物と化しながらも最後の力を振り絞っての“く”の字フルスイングも内野フライ。そのまま力尽きベンチ裏で倒れ込む
岩井を尻目に、続く打者は樋口。
豪快なフルスイングでファウル一本にもどよめきを巻き起こすも、最後は紙一重の空振り三振……。
2死となるも一発の可能性を秘めた久保。しかも先日の国内独立リーグの試合ではレフトスタンドへ突き刺さる豪快な一発を放ったばかりだ。
もしや……だが最後は試合時間を気にしながらの打席となり、無念の内野ゴロに倒れ、結局引き分けに。

最終回2死から同点に追い付かれた岩井は、枯れ葉のように朽ち果てた表情で球場を後に。
『……誰か私の頬を殴って下さい……』と、体罰厳禁のNLコンプライアンスを逸脱するほどの猛省を見せる岩井を気遣い、
頬どころかコメカミに鉄拳を入れた心優しき指揮官は『負けなかった事が収穫』とエースを讃えた。

試合後、球団事務所で首脳陣と契約交渉を終え正式入団を果たした樋口。飽くなき理想像を追い求めて背番号27を希望。
裏工作でも札束攻勢でもない、情熱の野球理論でNL“骨太っ!”打線が、またさらに骨太感を増した。

■平成25年3月10日/駕与丁公園/開始14時
○N.ライオンズ 12-0ブルドッグス●

NL:10 0 0 1 1 0:12
BB:0 00 0 0 0 0:0

勝・岩井 3勝0敗0S
○岩井・久保・安井ー中津

打・美澤 1

【経過】
開幕連勝を飾り、今季キャッチフレーズ『骨太っ!』な戦いを実践しつつあるNL。
この日の対戦チームは昨年プレーオフ準決勝で、1対0という息詰まる攻防を演じた強豪。
首脳陣は『“骨太っ!”なチームが完成したかどうか試金石となる一戦』と語り、リーグ前半戦の大一番と位置付けた。
だが、熱いのは首脳陣だけではない。
一部主力組は当日早朝からオフ返上で国内独立リーグのゲームに志願出場。すでにこの試合を前に、心身共に“骨太っ!”な
出来に仕上がっていたのだ。

初回、そのNL打線が一気に主導権を手にする。
先頭の久保が俊足を生かして相手エラーを誘い出塁。転がしただけで相手野手のプレッシャーとなる足で魅せると、続く超攻撃型2番打者・
安井がすかさずセンター前へクリーン安打。さらに安打製造機にして選球眼チームNo.1、無敵の3番・松永が難なく四球を選ぶと無死満塁。
この絶好の先制機に絶好の打者、不動の4番・美澤が、まさにNL黄金期主砲お手本のような繋ぎの精神を見せ、確実に押し出し四球で先制点を叩き出す。

こうなると“静”から“動”へ、NL打線が一気に加速する。続く5番・吉武の打球は鋭く二塁手の頭上を越えて一気に右中間を突破。ボールが転々とする間にNL最重量級の一走・美澤までもが激走ホームイン。走者一掃の3点タイムリー二塁打でリードを広げると、小田の際どい打球が相手守備の失策を誘い、さらに送球エラーの間に二走・吉武が生還。
続く中津はレフト前安打、岸本が四球で繋ぎ再び満塁とすると、いまだ1死も奪われぬままラストバッターの岩井へ。
『俺が最初にアウトなっちゃうのかな~』
とは言いつつも、よほど自分が最初のアウトになりたくなかったのか、いつもの度肝を抜く“く”の字フルスイングを巧みに調節し、最年長らしく省エネ気味にレフト前タイムリー。
遂に打者一巡、先発全員出塁の中トップに戻って久保がさらに押し出し四球。安井はこの回2本目の安打となるライト前タイムリー。松永はこの回2度目の四球を選び、さらに追加点。

打者12人……誰ひとりアウトにならぬまま迎えた4番・美澤。『こんな時大体、俺が最初にアウトになるんすよ~』の言葉通りのサードゴロ。遂に13人目にして記録が途切れるも、続く吉武は追い込まれながらも得意の流し打ちでレフト前安打を放つ。後続こそ倒れたものの、この初回だけで結局打者16人を送り込み6長短打で10得点。実に“骨太っ!”な大量先制点を挙げた。

打線は4回に久保が右中間突破三塁打に送球エラーが絡み、ひとりでダイヤモンド一周のお疲れ追加点。
さらに5回にも岸本の今季初安打がレフト前タイムリーとなりさらに追加点。
初回のビッグイニングで待たされ続けた挙げ句、先発のマウンドに上がったNLエース“初老”岩井はベテランの味で投球を組み立てる。

初回から0を並べ続け、完封がチラッと脳裏を横切った瞬間に、またしても指揮官からの降板指令。
『(試合)展開が展開だから』と肩を叩かれ潔く涙ながらにマウンドを降りると、2番手の久保はいつも通りの安定感で1イニングを無失点。
最後は、12点リードながら安井が今季初登板。一死からランナー1人は出すも続く打者をゲッツーに仕留めて貫禄の無失点で3投手完封リレーを決めた。
思わぬ展開での勝利にも浮かれる事なく、指揮官は次への展開を示唆。
NLの“骨太っ!”な2013年のシーズンがいよいよ本格化してきた。

■平成25年2月24日/駕与丁公園/開始14時
○N.ライオンズ 5-0アローズ●

NL:0 2 0 0 3 0 0: 5
AR:0 0 0 0 0 0 0: 0

勝・岩井 2勝0敗0S
○岩井・久保ー中津

打・府後 1

【経過】
前週の開幕戦で白星発進。V2へ向け、“骨太っ!”なスタートを飾ったNL。
しかしこの日の2戦目はNLにとって最も苦手とする難敵が相手だ。
これまでの対戦成績を見ても歩が悪いばかりか、昨年はNL開幕戦不敗神話まで崩壊させられている。
首脳陣の緻密な戦略をも凌駕し、常に先手先手をいかれる悪循環。
ここで“骨太っ!”な戦いができるかどうか、早くも天王山を迎えたと言っても過言ではないだろう。

いつも気安く軽率な言動で周囲のイラッと感を煽る最年長“初老”岩井も、いつになく真剣な眼差しで先発マウンドへ向けての調整だ。
試合は先攻。先手必勝で逃げ切りを謀りたいNLは先頭の久保がプレイボール直後の初球を、前週のリプレイを見るかのようにセーフティーバントの構え。
これを見逃し相手の動揺を誘うも、更に一枚上を行くかのような相手投手の巧みな投球術の前に、初回無得点に終わる。

その裏マウンドに上がった岩井。嫌な流れを作りたくない……という心配も何のその、この日は絶妙な制球力で相手打線を全く寄せ付けない。
高低に内外角、コースギリギリいっぱいに決めまくり、手も足も出させない完璧なピッチングを披露。
『いいぞー』『すごいねー』
野手陣の気持ちがこもってない激励の掛け声を背に受け、さらに調子に乗り始めた最年長。いつもならここで無駄な四球を出し始める兆候も、
この日の岩井には全く心配がいらない。
とにかく早く援護点が欲しいが、相手もリーグ屈指の技巧派投手。やはり中軸がその術中にはまり捕らえる事ができない。
しかし、今季のNLにはある意味、上位よりも数段恐ろしい下位打線がある。これぞ、まさに“骨太っ!”の真骨頂だ。

2回1死、中津のサードゴロ失策から突破口を切り開くと2死となっても怯まず、開幕から打率10割をキープする好調な小田が四球。
さらに府後が体格の利を生かした威圧的なフォームから、相手を欺くかのような技ありのライト前タイムリーで先制。
すると打席には岩井。『みんな打撃がなっとらん。俺が手本を見せに行く』と最年長らしく頼もしい捨てゼリフを吐き打席に向かうと、
周囲のイラッと感をよそに豪快なスイングからこの日はバットに当たり、左中間を破るタイムリー二塁打で2点目を奪った。
今度はやや気持ちがこもった『いいぞー』『すごいぞー』と適度な声援。

追加点が欲しい打線は5回、小田、岸本の両ベテランの計算され尽くした連続四球でチャンスを作ると、1死一、三塁からまたしても投打に調子乗りまくりの岩井。今度はセンターへ上がったやや浅い飛球。三塁走者は岸本。
無理せず自重かと思わせながらも、チームのため、岩井のため(なわけない)、ベテラン主将が老骨にムチ打ってのタッチアップスタート。
センターからの返球を間一髪かわしての激走で3点目を奪うと、このプレーに感極まった優等生・久保が続かないわけがない。
痛烈な打球をレフト前へ放ちタイムリーとなると、さらに今季初登場の安井が『俺も打ちたい…しかもタイムリー…』と思わずにはいられない
2死二塁。しかし、相手バッテリーミスの間に俊足走者の久保が、情け容赦ない激走で本塁まで駆け抜け5点目のホームインだ。

ここまで文句の付けようのない圧巻のピッチングの先発岩井。
『必ず完投しなければならない試合はあるから』と初老をなだめつつ、指揮官は完封を意識させる前に素早く降板指令。
さも当然の策のように、6回からは久保をマウンドに送り出した。

久保はこれまで変化球のキレで勝負してきたが、今季は開幕から直球の精度が増してまさに鬼に金棒。
キレキレ投球で相手打線を寄せ付けず、不用意に招いた1死三塁のピンチにも動じず絶妙な制球で無失点。
結局ラスト2イニングを0に締めての今季初セーブ。岩井との鉄壁の完封リレーを飾った。
『他チームの勝敗は意識しない。しっかりとした戦いで“骨太っ!”な野球を実践していく』
首脳陣の思いが結集した開幕2連勝。すでに次なる戦いへ向けての戦術を整えているはずだ。

■平成25年2月17日/山王公園/開始13時
○N.ライオンズ 17-2 丸喜レンジャーズ●

MR:1 0 1 0 0 0: 2
NL :6 0 7 0 4 X:17

勝・岩井 1勝0敗0S
○岩井・久保ー翔平・中津

打・岸本 1

【経過】
2013年、いよいよNL旗揚げ10年目アニバーサリーシーズンのスタートを迎えた。
昨年は歓喜のV奪回を果たしたとはいえ、まだまだ発展途上。
指揮官は『ここぞと言う場面でしっかりと地に足を着けた戦いができるチームにする』と語り、今季のキャッチフレーズを
“骨太っ!NLイズム2013”と発表した。

その言葉を実践すべく、1月下旬には1日4時間に渡る『NLキャンプ』を敢行。
ベテランは老骨をもむしり取られ、若手に至ってはグランドで吐き散らかしながらも過酷なメニューを終え、選手全員の鍛練はもちろん、
結束と意思統一に成功。

そしていよいよ迎えたこの日の開幕戦。
マウンドには2年連続開幕投手の栄誉を受けた、エース“初老”岩井が上がる。
最年長らしからぬ軽い言動でチームに溶け込み、指揮官には怒鳴られ若手にも激しく突っ込まれながらも優勝投手として確固たる地位を築いた。
この日もその投球術でキッチリと答えを出してくれるだろう……
という首脳陣の期待とは裏腹に立ち上がりの初回、あっさりとタイムリーを許し先制点を与えてしまう。
『おかしいな~…』消え入りそうな弱々しい声で指先の状態を確認しながら言い訳がましくベンチへと戻る最年長。

そんなエースを助けたい!NL1の優等生、トップバッターの久保がいきなり仕掛けた。
NL2013最初の打者として打席に入ると、いきなり初球を三塁前へセーフティーバント!
両ベンチ共に意表を突かれた絶妙な転がし方に、難なく一塁を駆け抜ける久保。
湧き上がるNLベンチ。さっきまで顔色が悪かったエース岩井まで便乗して大盛り上がりだ。
続く打者の初球に久保は俊足を生かしての二盗成功。僅か2球で得点圏に進むと、これでNL打線の勢いに火が点いた。
松永の四球、美澤の相手エラー出塁で1死満塁の場面を作ると、『やることはひとつ』とばかりに続く吉武が叩きつけてのライト前タイムリーで同点。
さらに中津のサード内野安打で逆転すると、岸本、府後が巧妙に繋いでの連続四球で押し出し。
さらにここで迎える打者はベテラン小田。初回には動体視力の衰えからファウルフライを落球した汚名返上とばかりに、振り抜いた痛烈な打球はレフト線に達する2点タイムリー。
この回一挙6点を挙げて逆転すると、1点を返された3回にはまたしても怒濤のビッグイニングだ。

先頭の吉武が二遊間を破るセンター前安打で出塁すると、すかさず二盗成功。
キャンプでベテランも容赦なく走り込みのメニューをこなした成果を生かし得点圏に進むと、中津、岸本がキッチリと繋いで四球。
無死満塁で『やるしかない』と開き直った府後の当たりはフラフラとライト方向へ。だが振り切った分セカンド後方にポトリと落ちるタイムリーで追加点。
小田、MG深町の連続押し出し四球でリードを広げると、いつの間にかイケイケの顔つきに変わってる岩井が、『そろそろいっとこか』とばかりに得意の“く”の字フルスイング!ベンチの笑いを誘うも打球は投手前のボテボテのゴロ。真剣な全力疾走で一塁へ駆けると、相手エラーを誘い“らしい”2得点を挙げる。

さらに久保が死球で繋ぐと、昨年最終戦で激戦を制し首位打者に輝いた、仕事人・松永が“らしい”ライト前2点タイムリー。
役者が揃いこの回7点を追加すると、マウンドの岩井は『良くないな~』ながらも4回2失点。
降板目前には駄々をこねる子供のように秘技トルネード投法を連発。女房役・翔平からは『明らかに球威落ちてる』と酷評されたばかりか、ベンチへと戻る際には指揮官の暴走を警戒する有り様。

マウンドで後を受けた久保は全く危なげなく2回無失点。こちらは昨年、NL史上初の無敗記録で勝率10割を達成した通りの安定感だ。
久保は最終打席でもセンター前タイムリー。小田も2安打2打点を全て長打で決める幸先良いスタートだ。
後は開幕戦に主砲の一打が欲しい。
『翔平もまだ打ってないし。よし凡打しろ。よっしゃ打ち上げた~』
同僚の凡打をベンチで喜びつつ5回、主砲・美澤のバットがついに火を吹いた。
2死満塁から放った痛烈な打球は一瞬にしてセンター頭上を越える走者一掃の3点タイムリー二塁打。

終わってみれば先発全員出塁の11安打17得点。
しかし開幕戦をいい形で終えたが抜かりはない。首脳陣は詳細なデータ解析で次戦に備えての戦略を練った。
それはまさに、“骨太っ!”なチームへと変貌を遂げる第一歩となったはずだ。